新宮の森林無断伐採:「考えられない行為」速玉大社宮司、組合に説明要求 /和歌山

2011/05/14@l

新宮市の熊野速玉大社所有の森林約1ヘクタールが無断伐採され、地元の森林組合が13日、関与を認め、謝罪した。「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産指定で国際的な知名度を得た同大社など熊野三山は、フランスの旅行案内「グリーンガイド日本編」でも最高級の三つ星を得たばかり。田辺市で22日に開かれる全国植樹祭を控え、県は緑の豊かさをアピールしていたさなかだった。「なぜ伐採を?」。理不尽な行為に多くの関係者が気をもんだ。【山下貴史、川畑展之、神門稔】

 新宮市によると、市と熊野速玉大社は今年1月、国の補助事業「森林整備加速化・林業再生事業(里山対策)」を進めるのに先立ち「環境保全協定書」を交わした。同大社の西側の権現山の2カ所計約3ヘクタールについて、景観保全のため樹木の枝を切る内容で、事業費は約37万円。市の委託を受けた市森林組合(前田章博組合長、組合員約330人)は、2月14日~3月24日に枝打ちを実施した。

 ところが森林組合は、その後も県、市、同大社に無断で樹木を伐採したという。前田組合長は「地元住民から『日が当たらないし、台風災害があると危険』という声があったと聞き、誤って切ってしまった。申し訳ない」と陳謝している。

 一方、熊野速玉大社の上野顕宮司は「枝打ちにしては工事が長いので、津波対策で避難所でも出来るのかと思っていた。実態を聞いてびっくりした。森林を守る側のプロがすることではない。常識では考えられない行為であり、森林組合に強く抗議した」と憤慨。組合役員らは13日、熊野速玉大社を訪れ、上野宮司に「認識が甘かった」などと謝罪した。

 上野宮司は、森林組合に対し伐採の経緯を明らかにするよう要求。「対応次第では被害届を出すかどうか検討する」としている

 ◇知事訪問のミシュラン室長「星の数変わらず」
 この日は、仏タイヤ大手ミシュランがグリーンガイド日本編・改訂第2版(仏語)をフランスで発行した。日本ミシュランタイヤ(東京都)の森田哲史社長室長は、三つ星4件を新たに獲得した報告で仁坂吉伸知事を表敬した。森田室長は知事との面会後、毎日新聞の取材で森林の無断伐採について問われ、言葉を失った。気を取り直した後、「本当に素晴らしい所なので、星の数は変わりません」と述べた。

 同ガイドでは、北海道の知床国立公園など新たに8件が「わざわざ旅行する」価値がある三つ星に認定された。うち4件は「熊野古道」「熊野三山」「那智の滝」「熊野本宮大社」。熊野速玉大社も初版の一つ星から、二つ星に昇進した。森田室長は「(伐採については)次に改訂する時に調査したい。残念ですが、熊野古道や熊野三山の全体に価値があるんです」と話した。

 ◇田岡市長「遺憾」
 熊野三山協議会長でもある田岡実千年・新宮市長は「世界遺産・熊野速玉大社のコアゾーンである権現山で、関係機関との協議もなく樹木が広範囲にわたり伐採されたことは誠に遺憾で残念だ。今後の対応については県などと十分協議し再発防止も含めて善処したい」とコメントした。

 ◇植樹祭、直前に
 22日には全国植樹祭の式典が田辺市である。県は今回、豊かな「木の国」の緑を将来に引き継ぐための県民全体での取り組みと位置付け、準備に追われている。県の担当者は今回の無断伐採について、「決して好ましいことではない」と語気を強めた。

 植樹祭の大会テーマは「緑の神話 今 そして未来へ 紀州木の国から」。天皇、皇后両陛下もウバメガシなどを植えられる予定となっている。担当者は「伐採された森林は、世界遺産の景観を守る和歌山の大事な資源でもある。どういう経緯で伐採したのか……」と首をかしげている。

 ◇「古道」で被害相次ぐ
 近年、世界遺産である熊野古道の樹木が無許可で伐採される事例は相次いでいる。今回の伐採について、県教委文化遺産課は「以前の事例に比べ、被害規模が格段に大きい。県民に文化遺産としての価値を周知徹底していきたい」としている。

 08年には、すさみ町の大辺路で、測量業務を受注した大阪府の業者が、計測のためウバメガシなど樹木を許可なく伐採。09年には大辺路でJR西日本が、工事のため機材などを運搬するモノレールの支柱をイノシシやシカの進入を防ぐ「しし垣」に打ち込んで約4・5メートルにわたって破壊し、立木8本を伐採した。

 県教委文化遺産課は「他県に比べると県内の世界遺産の面積は約3・5平方キロメートルと広く、目が行き届かない部分もある。年々登録されるのが難しくなっている世界遺産を大切にしてもらいたい」と話す。

毎日新聞 2011年5月14日 地方版


タグ: ,