東みよし町東山地区 みどりを守る会  みんなやけんできる 【徳島】

200_SXPbxTLC「これだけやれるのは会員みんなの力と、お大師さんの力じゃな」。徳島と香川の県境にある東山峠で、日に焼けた笑顔がまぶしく光る。

長原義文さん(67)=東みよし町東山=が会長を務めるのは、その名も「東山みどりを守る会」だ。地元の緑化を目標に2010年に始めた活動は今、都道府県のシンボル木を植えた公園造りや、地元に残るミニ四国八十八カ所の整備に発展した。古里の風景と歴史を愛する住民の活動が東山を輝かせようとしている。

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徳島のヤマモモ、香川のオリーブ、長野のシラカバ、鳥取のダイセンキャラボク…。標高約640メートルの東山峠近くの山の斜面90アールに、各都道府県のシンボル木が植えられている。

地元に伝わる伝説にちなんで「棟(むね)の大師堂公園」と名付けられたその場所は、ささいな会話から生まれた。「自分の出身地の木を知らないんです」。酪農業を営んでいた長原会長が5年ほど前、県外出身の獣医師からそんな言葉を耳にし、目からうろこが落ちたような気分になった。

「都道府県の木が全て分かる場所をつくるのはどうだろう。人が訪れるきっかけになるし、古里のことを好きになる人も増えるかもしれない」。14年、まずは町道沿いにある個人所有地に植え始めた。さらに植樹を広げようと会員に呼び掛け、県の森づくり事業や宝くじの社会貢献広報事業などを活用して、峠に緑を増やしている。

杉や松などの自生種を含めると、44都道府県の木を網羅。旧三好町の木だったサザンカや、季節の色合いが美しい桜とモミジも植えた。

現在、会員は公園に休憩小屋を建てるため、間伐材のヒノキの皮むきに当たっている。吉岡洋子さん(64)は「1人ではなかなかできんけど、みんなやけんできる。植えた木に花が咲いたら、次はどこが咲くか楽しみになるねえ」とほほ笑む。

県名や木の名前を記したプレートの設置や、遊歩道の整備も計画中だ。「眺めのいいところをずっと歩いていけば気持ちいい。一年中でも遊べる場所になるでよ」と長原さん。構想は膨らみ、言葉となってこぼれ続ける。

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棟の大師堂公園は、会が保護を続ける「東山新四国霊場八十八カ所」のコース上にある。山あいの道沿いは、歩けば肺の奥まで澄んだ空気が染み渡る。コース沿いを流れる滝久保谷川のせせらぎは、三段の滝「三枚とべ」や、石のくぼみに流れ込んだ水が逆方向に回る「夫婦渦」へと姿を変えながら、巡礼者の目を楽しませる。

しかし、巡礼コースには難点もある。緑に囲まれているため、折れた木の枝や石が散乱しやすい。各札所に安置された石仏も、こけむすと探しにくくなる。

このため会員は順路を掃除し、案内板や旗を設置した。全長14キロで本物の100分の1の長さの巡礼路は、地元に不案内な人でも巡りやすくなった。

お遍路さんが身に着ける鈴を鳴らしながら、コースを歩いていた会員の大西國夫さん(76)=同町昼間在住、東山出身=が、八十八カ所への特別な思い入れを話してくれた。「何度も転職を余儀なくされたが、そのたびに仕事はすぐに見つかった。信心しとるおかげかもしれん。恩返しのつもりで掃除しよるけど、それが地元を守ることにもつながっとる」

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植樹、清掃、案内板の設置…。数日がかりの作業でも、会員は苦にせず笑顔で手を動かしていく。「やんりょることが面白い」「次は何をつくろうか、と目標があるけんな」。楽しみながら続けてきた活動は、実を結びつつある。八十八カ所を町の観光資源とし、トレッキングやトレイルランのコースとしてPRしようという動きがあるのだ。

「東山にはええものがあるんじゃ。ええところを全国の皆さんに伝えて、東山に来てくれるようにしていきたい。皆さんと一緒になあ」。東山の魅力を発掘し、新たな名所づくりに挑む活動は、いつも笑顔と共にある。

【写真説明】【上】「東山新四国霊場八十八カ所」の順路に設置した案内板。長原さん(左)らが整備と魅力発掘に取り組んでいる=東みよし町東山

【下】都道府県のシンボル木を植え、新たな名所づくりを進める

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