人手不足や木材価格の下落に伴って森林に放置される「切り捨て間伐材」が全国各地で問題となる中、福岡県糸島市が1日、貯木場「木の駅 伊都山燦(いとさんさん)」を開設した。市内のスギやヒノキの間伐材を買い取って効果的に流通させ、人工林所有者の所得向上や森林保全の担い手を育成するのが狙いだ。自治体では全国初の試みという。林業活性化に向けて間伐材を「地産地消」する取り組みが注目される。
糸島市内の人工林約6千ヘクタールのうち、林業従事者らが間伐や枝打ちなどの手入れをしているのは4割。間伐しても木材価格低迷で採算が合わないため、2009~11年度は山林780ヘクタールのうち、間伐材が放置されず搬出されたのは26ヘクタール(3・3%)にとどまった。
そこで糸井市は、同市高来寺に伊都山燦を設置。近くに間伐材を買い取る貯木場があれば、間伐に携わる人が増えると考えたのだ。運営は木材卸売加工販売業「伊万里木材市場」(佐賀県伊万里市)に委託した。
伊都山燦では建築材になる丸太のほか、砕いて木材チップに加工する端材・根元材(C材)も買い取る。糸島市内で伐採したC材を持ち込むと、買い取り価格(現在は1~2メートルで1トン千円)に加え、1トンにつき3千円分の商品券を市が上乗せする。市内370店舗で使える商品券を付けることで持ち込みを促す。
市農林土木課の井上義浩課長は「林業をしたことがなかった人が山の手入れをしてくれれば」と話す。
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どんな人が間伐を担う可能性があるのだろうか。
林業技術を学ぶ糸島市林業研究クラブという民間団体がある。現会長は、15年前に関東での会社員生活から故郷に戻った吉村正春さん(58)。本業は稲作で林業は副業だ。
クラブはこれまで森林組合の委託を受けて間伐してきたが、搬出コストが見合わず放置することが多かった。吉村さんは「これからは木の駅が近くにできたので気軽に運べる」と話す。
福岡市に近く海と山の自然に恵まれた糸島市には、農業やサーフィンをするために都会から移住した人や山林を持っていても林業をしたことのない人がいる。
クラブは今年、彼らを対象に林業塾を開き、チェーンソーの使い方などを指導した。その中から間伐作業に参加するサーファーも。吉村さんは「農業や自営業の副業として山仕事を楽しむ人が増えれば生活基盤が強まるし、山もきれいになる」と期待する。
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昨年7月に始まった再生可能エネルギーによる電力の固定価格買い取り制度に伴い、製材や製紙の大手企業が、九州で間伐材などを材料とした木質バイオマス発電に相次いで参入。2015年に続々と稼働する見込みだが、長期的に安定供給できるかが鍵となる。
糸島市で間伐材の地産地消が根付けば、木質バイオマス発電燃料の安定供給基地となる可能性も秘める。その意味でも九州大学農学研究院の佐藤宣子教授(森林政策学)は「多くの住民が関わる仕組みづくりが欠かせない」と指摘する。
例えば、市内には木材チップボイラーを既に備えた入浴施設がある。新たに病院や介護施設などにも導入してはどうか。まきストーブを持つ家庭も多い。陶芸の窯の燃料や工芸の材料にもなる。佐藤教授は「少量ずつでもいいので、多くの人が地元の木材を利用する動きを広げては」と提案する。