IPCC5次報告 「地球はいま海洋深層に貯熱中」

scn13100214370000-n1国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、地球温暖化の将来予測についての第5次報告書をまとめた。

今世紀末の世界の平均気温は最大ケースで、現在より2・6~4・8度高くなるとしている。海面上昇は最大ケースで45~82センチ。

世界は2015年の国際会議(COP21)に向けて、途上国を含むすべての国々が参加する温室効果ガス削減の「新しい枠組み」作りを目指している。その交渉に、報告書が影響するのは確実だ。

今回の第5次報告書では「気候システムの温暖化は疑う余地がない」としている。

20世紀半ば以降の温暖化の主要因として「人間活動」を挙げ、その「可能性が極めて高い(95%以上)」と断定した。

6年前の4次報告書の「可能性が非常に高い(90%以上)」を、さらに強めた表現だ。

報告書は、海についても警鐘を鳴らす。1970年代から海洋の上部(0~700メートル)で水温が上昇しており(可能性99%以上)、90年代からは3000メートル以深の水温が上昇している(可能性66%以上)とした。海洋深層の昇温に触れる報告は、今回が初めてだ。

大気中の二酸化炭素濃度は今年、400ppmに達した。二酸化炭素は、大気から海洋に溶け込むので「海洋酸性化が進行するであろう」と予測されている。炭酸カルシウムの殻を持つ海洋生物にとっては生存の危機につながる一大事だ。

IPCCは、温暖化への懸念が深まり始めた1988年に設立された。今年は活動25年の節目に当たる。

温暖化の人間主因説を確立した2007年の第4次報告書は世界の注目を集め、IPCCは、その年のノーベル平和賞を受賞した。

だが、その2年後からIPCCは、スキャンダルに見舞われた。温暖化進行を強調するあまりの「勇み足」が原因だ。

有力研究者の謀議が疑われ、クライメート(気候)ゲート事件と揶揄(やゆ)された。4次報告書のヒマラヤ氷河の消滅やオランダの海面以下の面積は、明らかな誤りを含んでいた。

こうした経緯もあり、IPCCを絶対視しない傾向も研究者の間に生まれている。

じつはこの約15年間、気温の上昇は頭打ちになっている。

近年の猛暑を体験している日本人には実感しにくいが、「世界の平均地上気温」の上昇は、止まっているのだ。

それに加えて、10年以上前から、黒点数の減少など太陽の磁場活動の低下を示す現象が起きている。太陽は百数十年ぶりの低迷期に向かう兆候を見せているのだ。黒点が少ない時代には寒冷な気候が出現している。

こうした歴史の前例を踏まえ、急速な温暖化が今後も続くとはかぎらない、と主張する太陽研究者も少なくない。

これらの指摘をIPCCも意識していたようだ。近年の「温暖化の停滞」を認めた上で、関係者は「ほとんどの熱が海を温めるのに使われているため」と説明する。

深い海の水温は、ゆっくり上昇しつつある。だから、ゆらぎやすい大気温の上昇が一時的に止まっていても地球全体としては、温暖化が進んでいることに変わりはないとする。

太陽の磁場が弱まると地球に到達する宇宙線が増える。それに伴う雲粒の増加も考えられるものの工業化以降の地球の気温変化には、ほとんど影響していないという見解も示された。

IPCCが世界の意識を、地球温暖化のもたらす危機に振り向けてきた功績は大きい。

だが、人間活動以外の要因で温暖化が進む可能性を「5%以下」と低く見る姿勢は、いかがなものか。

人類の責任を重く見るのはよいが、そこには相対的に太陽など自然の摂理の軽視が含まれる。裏返すと人類の思い上がりにも通じることになるだろう。

さらに気になるのは、今回の新見解として報告された「二酸化炭素の累積排出量と世界平均地上気温の上昇量は、ほぼ比例関係にある」という一文だ。

軽く読み過ごしそうだが、含まれる意味は多様だ。今後の国際排出削減交渉の場で、さまざまの牽強付会(けんきょうふかい)な主張の論拠となるのではないだろうか。そういう気がしてならない。

産経ニュース