被災地で進む環境革命 エコ住宅で森も町も再生へ

19月上旬、宮城県南三陸町で1つの任意団体が産声を上げた。

「南三陸木の家づくり互助会」

カキやホタテといった海産物で知られる南三陸は森林資源の宝庫でもある。建築用の木材が外材に置き換わるまでは林業も盛んな土地柄だった。この眠れる森林資源を使って、被災地の最大の悩みである住宅を「自分たちの手で建ててしまおう」というのが「互助会」の狙いである。

■「結」や「契約講」を復活

今、被災地で生活再建の最大の障害になっているのが住宅問題だ。高台移転に関する住民の意見集約はなかなか進まず、土地の造成も遅れている。そこに追い打ちをかけるのが「復興バブル」だ。

板倉工法の耐震性を説明する筑波大学の安藤邦広名誉教授

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板倉工法の耐震性を説明する筑波大学の安藤邦広名誉教授

「震災前に2400万円で建てた家を建て直そうとしたら、同じ間取りで6000万円に跳ね上がっていた」(南三陸町在住の女性)。国が投じた復興予算の25兆円が資材や人件費の高騰を招き、地元の人々を苦しめている。被災地で坪100万円を越える建築費を負担できる世帯は多くない。

「何とかして坪50万円で家を建てられないか」。そんな発想から始まったのが「木の家づくり互助会」である。

「互助会」と名付けたのは、地元の人々が木出し(伐採した木を山から運び出す作業)、材木の乾燥、棟上げといった人手のかかる作業を分担するからだ。他人が家を建てるときに手を貸す代わりに、自分が建てるときはみんなに手伝ってもらう。昔の日本にあった「結」や「契約講」を復活させるわけだ。こうすることで人手不足を補い、建築コストを引き下げる。

工法は、筑波大学の安藤邦広名誉教授が提唱する「板倉工法」を採用する。板倉工法で作る木の家は「夏涼しく冬温かい」(安藤氏)。室内の温度は1年を通じてセ氏10度から30度、湿度は40%から70%に保つことができるという。冷暖房のコストが少なくて済むからエコである。

安藤氏は震災直後にこの工法を使った仮設住宅を考案し、福島県いわき市で採用された。いわきニュータウンの仮設住宅には、プレハブではなく木造の美しい家が整然と並んでいる。

「互助会」には「家を安く建てる」以外に、もう一つの狙いがある。林業の復活だ。

板倉工法は古来、日本の穀倉などで用いられてきた工法で、土壁やサイディングボードといった外壁材の代わりに厚い木の板を使う。木材の使用料は通常の住宅の約3倍になる。しかし南三陸には7000ヘクタールの森林があり「7万戸分の木材を自給する能力がある」(安藤氏)。実際に復興で必要なのは3000戸であり、伐採による環境破壊の心配はない。むしろ適度な伐採は森林保全につながる。

■多様な樹木が生える環境

戦後の日本は、焼け跡から立ち直るときの爆発的な住宅需要に対応するため、全国の山に杉を植えた。成長が早く建築に適しているからだ。しかし、しばらくすると海外から輸入される木材との価格競争に敗れ、需要が激減した。

杉ばかりの山は自然な姿ではない。杉は根が浅いため、豪雨や地震のときに地滑りを起こしやすい、という指摘もある。適度に杉を伐採し、多様な樹木が生える環境を作れば森が元気になる。森が自然の姿に戻れば、そこから流れ込む水もきれいになり、海もよみがえる。海がよみがえればカキやワカメも元気に育つ。

自分たちの手で山から木を切り出し、製材し、家を建てる。それが「真の復興の風景だ」と安藤名誉教授は言う。安藤氏の試算によると日本の国土の12%は杉に覆われている。この豊富な森林資源を使って環境に優しい家を建てることで、森や海を自然の姿に戻していく。被災地で静かな環境革命が進んでいる。

(編集委員 大西康之)

日本経済新聞