森林が危ない いま対策を急がねば手遅れだ

2013年07月18日

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森林が危機である。県内をはじめ、日本各地で人工林や里山が荒廃し、自然林の多様性も失われつつある。
森林は緑のダムとして水を蓄え、酸素を供給し、気候変動や国土の崩壊を防ぐ。同時に生き物を育み、生物多様性を維持してきたのだ。むろん木材の供給源として、人々の生活を支えてもきた。
豊かな森なくして、人間の未来はない。森林の重要性を再認識し、かつ衰退の現状と原因を直視することで、手遅れにならないうちに保全に取り組まねばならない。
森の危機は、まず人工林へ忍び寄る。その歴史は新しく基盤が脆弱(ぜいじゃく)なだけに、荒廃するのもまた早いからだ。
造林は、戦後の荒れた国土を緑化するため開始された。朝鮮戦争の特需景気などで木材価格が高騰、人工林は拡大した。さらに高度経済成長に伴う拡大造林などで、日本の森林約2500万ヘクタールのうち、約4割がスギ・ヒノキなどの人工林になったのだ。
しかし伐採費や人件費、苗木の高騰などで木材価格が上がり、輸入材の増加などで森林従事者は減少。木材自給率は25%程度まで落ち込み、多くの人工林が放置された。
本県も例外ではない。日本有数の森林県だけに、むしろより深刻な事態だ。県内の森林面積約40万ヘクタールのうち、人工林率は6割を超える。それだけに、人工林の荒廃が県土全体に与える影響は多大だ。早急な対策を必要としよう。
かつて、丹念に手入れされた人工林は整然として美しかった。土壌も豊かで生物も生存できる環境。間伐の手法で下草も生え、多様性も一定程度に保たれていた。
しかしいま、枝打ちも間伐もされない放置林の内部は薄暗く、土壌は流出して生物の気配はない。さらに放置すれば根の浅い木は大雨や台風などによって倒れ、山は崩壊しよう。まさに「死の森」になりつつあるのだ。
もはや林業従事者だけで改善できる事態ではない。全国民が費用を応分に負担し、それを具体化するのが行政の重要な役割となってきた。
遅まきながら各地の自治体は、森林環境税を導入して対策に乗り出している。本県も2005年に制度を導入して以来、年間およそ4億円を徴収。森林環境保全基金を通して保全事業に充てている。
将来的には自治体間の取り組みを横断的に結び、より広範囲の行政課題に昇華させる必要もあろう。さらに国レベルでも、木材自給率の引き上げや林業振興などの政策立案も急がねばならない。
言うまでもなく、かろうじて残された自然林の保全も重要だ。人工林再生とともに、県内に残る自然林を後世に引き継いでこそ、人の生活は未来へ保証されるのだ。

愛媛新聞


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