“緑の長城”、サハラ砂漠拡大を防ぐ?

091228-great-green-wall-trees-senegal-sahara-desert_bigいにしえの中国では、外部の侵略者を寄せ付けないために万里の長城が築かれた。そして、アフリカの地では21世紀のいま、“緑の長城(Great Green Wall)”が誕生しようとしている。この長城が相手にするのも容赦のない侵略者、“砂”である。

 計画案によると、緑の長城は、サハラ砂漠の南進を阻止する計画の一環として、アフリカ大陸を横断する形で西部のセネガルから東部のジブチまで築かれるという。デンマークのコペンハーゲンで12月上旬に開催された国連気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)の場でセネガル政府が報告した。

 プロジェクトのリーダーを務めるセネガルのアブドゥライ・ワッド(Abdoulaye Wade)大統領は、「緑の長城は、砂漠化の拡大を食い止めるためのものだ」と話す。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、サハラ砂漠周辺に位置するアフリカ中部・西部では、気候変動の影響により大多数の国で降水量が激減しているという。作物は枯れ果て、土壌侵食が進み、各地の農業は甚大な被害を受けている。砂漠化が今後も続くと、アフリカの農地の3分の2が2025年までにサハラの砂に飲み込まれる可能性があると国連では予測している。

 アメリカにあるカリフォルニア大学バークレー校林学センター(Center for Forestry)のパトリック・ゴンザレス(Patrick Gonzalez)氏は、「樹木たちは必ずと言っていいほど、砂漠化に対する抑止力として機能する」と話す。立ち並ぶ樹木は砂嵐に対する天然の風よけとなり、その根は土壌の質を改善する。特に土壌侵食を防ぐ効果が大きい。

 ゴンザレス氏は次のように話す。「しかしプロジェクトを成功させるには、長城を構成する樹木の種類を適切に選出しなければならない。同じような植林運動が海外機関の主導で進められたが、失敗に終わっている。外来種を植えたために、過酷な砂漠の環境ですぐに枯れ果ててしまったというのが一因だ」。

 緑の長城で砂漠化を阻止するというアイデアが最初に提案されたのは2005年のことで、発案者は当時のナイジェリア大統領オルシェグン・オバサンジョ(Olusegun Obasanjo)氏だった。この提案は2007年、アフリカ連合(AU)により承認を受ける。

 緑の長城が築かれるのは11カ国で、すべての国がプロジェクトへの資金供与を誓約した。しかし、長城の着工には非常に時間がかかっている。長城の予定全長7000キロのうち、現在までに植林が済んでいるのは525キロにすぎず、それもすべてセネガル国内の話だ。

 COP15の場でセネガル大統領のワッド氏は、「これまで長城植林に再優先で取り組んできた。プロジェクトに従事する専門家たちに対して、乾燥した環境でも保守作業なしに生き延びる丈夫な種を選出するよう依頼済みだ」と強調した。

 セネガル環境大臣の顧問を務めるンジャワル・ジェン(Ndiawar Djeng)氏は次のように話す。「大統領の発言には1つのメッセージが込められている。いますぐに植林を始める必要があるということだ。国際社会がセネガルに続いてくれたら、非常にうれしく思う。しかし、ほかが続かないとしても、私たちは自分たちのやるべきことを断固としてやっていく。それが、この地に暮らす人々のために必要なのだ」。

 砂漠を横断する緑の道は、干ばつで土地を追われた農民の助けとなるはすだ。“環境難民”の流出を押しとどめることもできるかもしれない。

 IPCCによると、アフリカの貧困層の70%以上が農業を生活の基盤としているという。しかし、干ばつや砂漠化といった環境関連の災難により、土地を捨てざるを得なくなった農民が急増し、膨大な数の移民がアフリカ中部・北部から流出している。幅15キロの緑の長城が誕生すれば、現在不毛化している周辺の土壌も改善することが期待される。農民たちは再び作物を育て、いまほど苦労せずに家畜を飼育できるようになるだろう。

 セネガルでは、自国内の長城に沿って何カ所か雨水用の貯水池を掘る計画も進められている。この地方は1年の間で3カ月しか雨が降らないため、貯水池が完成すれば救いの神となるに違いない。

 巨大な緑の長城は、強力な温室効果ガスである大気中の二酸化炭素を吸収するという効果もあり、さらに、土着の動植物に適したすみかを生むことにもつながる。

 樹木の種類によっては、木そのものが商業的な価値を持つ作物となる場合がある。緑の長城を構成する主要な種として予定されているアフリカ原産のアカシアの一種、アラビアゴムノキの場合、化粧品や清涼飲料といった一般消費者向け製品の主要成分となるアラビアガムが取れる。ほかにも、樹液や炭など利用価値は非常に高い。

 ただし、前出のゴンザレス氏は、「農民を助けるのであれば、緑の長城はあまり合理的とは言えない。植林ではなく自然に木々を育成させる方法、“天然更新”を活用した森林再生の方が見込みはある」と話す。

自然保護団体ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)のアフリカ・プログラム担当上級顧問のマット・ブラウン氏も、「植林だけでは、サハラ砂漠の拡大を食い止めることはできないだろう」と話す。

「それでも」と同氏は続ける。「緑の長城は極めて大胆な事業であり、時にはそういった壮大な話が、問題に関心を引きつける上で必要な場合もある」。

Christine Dell’Amore in Copenhagen
for National Geographic News
December 29, 2009
Picture by Tim Laman, NGS