【インタビュー】EVの役割とエネルギーの在り方を見つめ直すチャンス…大聖泰弘 早稲田大教授

2011年6月15日
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東日本大地震や相次ぐ原子力発電所の活動停止により、エネルギー供給の在り方が問いただされてきている。こうした状況は、次世代自動車の有力候補として挙げられている電気自動車(EV)の普及にどのような影響を及ぼすのだろうか。

エネルギー施策やEV普及に深く携わり、「電気自動車開発技術展(EVEX)」の実行委員長も務める大聖泰弘(早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科)教授に、EVを取り巻く現状、そして課題を聞いた。

—-:震災により、多くの原発が稼働を停止したことで「電力は安定して供給されるもの」という神話が崩壊しました。電気を動力とするEVの普及について、どのような影響が考えられるでしょうか。

大聖:EVの充電は、基本的に夜間充電によりまかなうというのが前提とされています。ですので、昼間の電力使用量がピークとなる時間帯への影響はほとんどないと言って良いでしょう。昼間に充電するとすれば急速充電ですが、短距離利用が中心となるEVでは、急速充電はあくまで緊急用。特に夏の昼間の急速充電利用は避けてもらうことを改めて徹底していく必要はあると考えています。

しかし、夜間電力のベースはもともと原子力発電によりまかなわれていました。当面はこれを火力発電で補って行かなければなりません。そうするとCO2の増大は避けられない。原子力に変わるクリーンな再生エネルギーへの転換を早急におこなっていく必要があるでしょう。

ただ、EVそのものとしては、ガソリン車と比べてCO2排出量に優位性があるのは変わりません。当面はEV普及に不都合が出るということはないものと考えています。むしろ、搭載されている大容量電池を活かした、「エネルギー貯蔵媒体としてのEV」という新たな活用方法を見直す機会だと思います。エネルギーを動力として使うだけでなく、災害時などには家庭の電力もまかなえるようなしくみなど、EVの様々なメリットを活かす方向性が考えられます。

—-:エネルギー政策の大きな転換が求められています。原子力への対応も含め、今後のエネルギー供給体制はどのような方向をめざしていくのでしょうか。

大聖:まずは原子力をなんとかして安全な方向に持って行く必要があります。その上で現在停止している原発の再稼働も考えていかなければなりません。太陽光発電や風力発電といったクリーンなエネルギーも既に実用化されてきています。しかし、エネルギー効率は原子力や火力に比べるとずっと低く、今すぐに替わりとなるものではありません。地元住民の理解を得ることが最大の課題となりますが、これは進めていかなければならないでしょう。

次世代エネルギーの有力候補として挙げられているのが、天然ガス(LNG)へのシフトです。現在は、新しい発電の方法として「コンバインドサイクル発電(※)」という技術があります。これはガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて高効率な発電をするもので、原子力までとはいきませんが、石炭、石油による火力発電と比べるとCO2排出量の面では大きくリードします。

私は経済産業省、資源エネルギー庁が中心となる、「総合資源エネルギー調査会」で新エネルギーと省エネルギー部会に参加しているのですが、新しいエネルギー普及推進についてどういう目標を見据えて行くのか、議論を重ねていく必要があると思います。

一方で、個人としても節約をすることが必要です。これは、今年の夏が大きなチャレンジとなるのではないかと思います。電力の大きな需要を迎える時期に我々がどのような節約、節電ができるのかによって、来年、そしてそれ以降の社会生活に大きく響いてくるでしょう。特に産業活動への影響は最小限に抑えていかなければなりません。

(※編集部註)ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせて発電するしくみで、始動時間が短いこと、ガスタービンの排気から熱を回収し二重に発電をおこなうことができることなど、効率の高さが特徴としてあげられる。また、原発などと比べ施設が小規模で済むほか、運用までの期間の短さ(4か月~半年程度)、内陸部にも建造が可能であることなどから、現在注目を集めている。

—-:EVの開発自体にも方向性の転換というものが必要となるのでしょうか。

大聖:その必要はほとんどないと言って良いと思います。エネルギーの大切さを考えながらも、最適な移動手段というものは必要です。EVの使い方や役割を、もう一度問い直していくことが重要であると考えています。

そのひとつの方法として、トヨタや三菱が推奨しているプラグインハイブリッド(PHV)という選択もあります。これも夜間充電を上手く使うことで、(エネルギーの観点から見ても)有用な移動手段となるでしょう。

しかし、皮肉な言い方をすると、エンジンとモーター(とバッテリー)を搭載するPHVは無駄が大きいのです。例えば、平日に通勤で使う場合は電力だけで走ることができるとします。この時エンジンは全くいらない。一方で週末に遠出する場合には、むしろエンジンだけで良い。バッテリーの重量だけで大人2人分ほどありますから、使わないバッテリーを載せているだけでも燃費効率に大きく影響します。もう少し軽量化できれば、さらに効果は高まるでしょう。

軽量化の課題はEVにも同じことが言えます。リチウムイオン電池を使用している限りは限界もありますが、重量を半分に(電池の効率を高める)、そしてコストが下がってはじめて自立して売れるようになる。リチウムイオン電池に替わる高効率の次世代電池も研究が行われていますが、量産・市販までに20年はかかるでしょう。今、爆発的に売れているハイブリッド車の『プリウス』も、ここに至るまでに10年かかっています。EV、PHVについても、ちゃんと売れて、収益がでるまでには5年〜10年はみなければならない。それまで政府には、助成をしっかりと続けてもらう必要があります。

EVも電池やモーターの部分を除けば、基本的にはガソリン車と同じです。常に高性能化・高効率化をめざす、という点に変わりはありません。

—-:「EV元年」とも言われた昨年から1年が経ち、EVを取り巻く環境は変わったかと思います。10月に開催される今回のEVEXはどのような展示となるのでしょうか。

大聖:EVだけでなく、エネルギー産業全体にとってこの状況は大きな逆風だと言えます。しかし、これは知恵を出す良いチャンスでもあります。エネルギーというものが、安く、安定して手に入るという考え方を見つめ直す機会です。その上で、EVEXとしては昨年の成果を受けて、粛々と、かつ発展的にやっていく。EV専用車の日産『リーフ』が市販されたことの影響、その成果も見えてくるのではないでしょうか。
《宮崎壮人》

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