赤ちゃん記念の植樹、24年で10万本 常陸大宮

2011年1月11日

 赤ちゃんの誕生を祝福する森が常陸大宮市にある。24年間で10万人分が記念植樹された。合併前の村名から「美和の森」と名付けられたこの地は、喜びを記憶する森として、参加した全国の赤ちゃんと家族からふるさとのように親しまれている。地域ぐるみの育樹活動にも発展し、蛍やチョウの舞う里山が再生しつつある。

 10万の木がもたらす緑は、東京ドーム7個分の広さになる。当初の苗木は四半世紀を経て、鳥や小動物がすむ森に育った。高さ10メートルを超す木々が力強く枝を伸ばす。

 旧美和村での植樹活動は、育児・高齢者用品メーカーのピジョン(本社・東京)が1987年に始めた。発案した仲田洋一最高顧問(当時は社長)は、美和の名に魅せられた。「美しくて平和」。社名は平和を象徴するハトの意味。「精神が通じる」と全国の候補地から選び出した。

 「育児と育樹、心は同じ」。当初から変わらぬスローガンだ。人も木も、周囲の愛情に守られ成長する。

 毎年、3500~6000人を全国から募集し、その本数を植え、育てる。林野庁の進める「法人の森林(もり)」の先駆けとなった。

 20回目までは、国有林でスギやヒノキを育てた。07年からは、放置され荒れていたゴルフ場予定地90ヘクタールを購入して「ピジョン美和の森」と名付け、ナラ、クヌギ、エノキなどの広葉樹を植えている。

 参加する親は、木の成長に我が子を重ね合わせる。

 「700グラムで生まれました。木のように大きく育つよう願いを込めます」
 「風雨に負けず、大地に根をはる木のように、強く丈夫に育ってほしい」
 「この子の時代には地球温暖化がなくなっていれば」

 旧美和村は約8割が森林だが、伐採と林業の担い手不足で荒れた山も少なくない。

 ピジョンの森の世話を受託する美和木材協同組合の川西正則専務理事は、森が新しく手入れされていくことを喜んでいる。「最初は長く続くと思っていませんでした。例のない事業でしたから。でも、会社一丸の努力に、我々も一緒に盛り上げようと引き込まれてきました」。今後は樹木医の協力も得て、桜や紅葉も手がける計画だ。

 常陸大宮市は、里山の再生にも期待を寄せている。景観が戻り、生態系が富み、水が浄化される。市は毎年、森の沢付近に蛍を放してきたところ、3年前から夏に乱舞が見られるようになった。エノキの森でオオムラサキを増やし、茨城屈指の国蝶の里にする構想もある。環境教育にも生かしていく考えだ。

 市美和総合支所の鯉沼衛・経済建設課長補佐は「04年の合併で住所表記から消えた美和の名が残り、全国の人に末永く愛してもらえる。ありがたいことです」と話す。

 ピジョンは07年、全社員が現地を訪れ、植樹した。「赤ちゃんをお持ちのお母さんやお父さんと気持ちを共有して、いつまでも続けていきたい」と説明している。

 美和の森にはログハウスがあり、参加者全員の名簿が備えられている。全国各地から毎年のように訪れる人たちがいる。母となった参加者が、親子3代でやってきたこともあるという。3世代かかるといわれる森づくりが、着実に進んでいる。(吉村成夫)

     ◇

 ピジョンは、25回目の誕生記念育樹の募集を今月から始めた。参加資格は昨年1月から今年2月の間に生まれた赤ちゃんで、抽選で5000人を選ぶ。5月14日の現地での植樹式に50家族を招待する。いずれも無料。3月31日締め切り。問い合わせはキャンペーン事務局(03・3531・8181)へ。
<asahi.com 2011.01.11.>
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