2011年01月05日
◇過去の仕事を引っぱらず、新しい世界へ――硲伸夫理事長
日が昇り始めた午前7時。豊田市中心部の矢作川にかかる豊田大橋の下に男女17人が集合した。伐採した河畔の竹を焼却場に運ぶため、チェーンソーやのこぎりで2メートルほどに切り分けたり、草刈りをしたりして、2時間があっという間に過ぎた。先月18日はNPO法人「矢作川森林塾」の昨年最後の活動日だった。
伐採を終えた橋上流の川沿いには、以前は竹に阻まれていたエノキやヤナギが伸び、美しく穏やかな景観が生まれつつある。
人口42万人の同市はトヨタ自動車の企業城下町。下請けなども含めた自動車関連製造業で9万人が働き、企業内でも地域社会でも「タテ」の関係が強い。そんな地域で市民活動には「ヨコ」の関係という意味がある。
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大塚則夫さん(60)は3年前からトヨタ自動車労働組合の専従だ。労組内に組合員やOBのボランティア参加を支援する組織があり、事務局を務める。「社員は全国から来るし、仕事ばかりで地域とのかかわりがない。定年後、地域にとけ込めるようにしたい」と言う。半ば仕事での森林塾参加だが「ボランティアは企業と違い利潤を求めない。命令もされず、心の広い人が多い」と楽しげだ。
年末にトヨタを定年退職した鈴木次郎さん(60)は、知人に竹が欲しいと相談されたことがきっかけで、昨年9月から参加している。「上下関係はもういい。社外の活動は、相手を尊重しないとやっていけない。だから楽しい」。刈った竹で楽器も作る。子ども向けに竹を使ったものづくりのワークショップを開きたいと考えている。
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「自分はヨコつながりばかり。タテはない」と話す福岡鉄雄さん(71)は紳士服の仕立屋さんだ。森林塾には当初から参加している。ソバ打ちなど地域との交わりが多い。「退職後、朝、仏さんに参って散歩したら、あとは何もすることがない、なんて話を聞くと気の毒に思う」と言う。
「過去の仕事を引っぱらず、新しい世界へ入る心構えでいる」と森林塾理事長の硲(はざま)伸夫さん(72)は言う。トヨタで品質保証部長の後、取引先の織物会社に出向して転籍、04年に退職した。縁あって誘われ、当初から森林塾の責任者を務めている。「みんな同じ立場で尊重しあって活動したい。外から来ても豊田に愛着を持ち、住みやすいまちにしていったらいい」
背広から作業着へ、企業戦士のしかめっ面から柔和な表情へと変化した夫を、妻のさくらさん(65)は「自然や人生を楽しむ多くの人たちと知り合い、夫は変わった。退職後の道を上手に開いた」と喜んでいる。(小渋晴子)
《NPO法人「矢作川森林塾」》
環境への取り組みで知られる矢作川漁協内に2005年にできた組織が前身。河畔に繁茂し、景観を損なっている竹林の伐採をするため、同年、現地調査を実施。06年から4年がかりで豊田大橋上流の左岸600メートル、約2ヘクタールの竹を伐採した。10年春、市民が参加しやすいようにNPO法人化し、橋下流400メートルに着手。完了すれば豊田スタジアムから矢作川が望める。会員は26人。60歳以上が会員の7割を超える。
<asahi.com 2010/01/05/>
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