ヒノキを鉄骨並みの強度に 高知・室戸市のドーム、森林活用で画期的技術 【高知】

bsc1704180500003-f1間伐材のヒノキを鉄骨並みの強度がある建材に変える画期的な技術が静かに広がっている。森林経済工学研究所(兵庫県加東市)の「キトラス」システムだ。2月に完成した高知県室戸市の屋内運動場のドームは、節くれ立った地元産の丸太を利用している。資格や技能を持たない住民が作業に参加した、森林活用と地産地消の取り組みでもある。

■丸太3756本組み上げ

「こんな木で大丈夫ですか?」「素人でも組み立てられるのですね」

2月16日、室戸市のドームを視察に来た静岡県議会議員から同研究所の今井克彦所長(73)は質問攻めにあった。

縦横約50メートル、高さ約20メートルのドームの屋根は、3756本の丸太が、金属接合部を使って四角錐(かくすい)をつなげる「トラス」で組み上げられている。

「節がある木は建材に適さない。鉄など金属の方が強度で木に勝る」という考えが学会や建設業界では支配的だ。

今井所長は1997年まで鉄骨メーカーの研究者だった。そのため鉄とトラスを知り尽くしている。大阪府の花園ラグビー場の大屋根も今井所長が手掛けた。

「鉄骨屋」が木に乗り換えたのは、大阪大教授になって2年目の99年から。宮大工との対話を通じ「節は枝が付いていた位置にある。そのため暴風や雪など最も荷重がかかる部位といえる。樹木が何百年も立っていることを考えれば節が弱いわけがない」という見解に至った。

■鍵の接合部を工夫

そして実験を重ねた。繊維の塊である木を鉄のように利用する鍵は接合部にあると考え、大型の金属ねじ「ラグスクリュー」に樹脂を絡め、ねじ穴と密着させる方法に到達した。

建材として必要な「引っ張り強度」実験では木は割れず、ラグスクリューは抜けずにちぎれた。鉄骨並みの強度を持つキトラスは2013年6月、指定確認検査機関の技術性能証明を取得した。

「地元の協力があってこそ」と今井所長は振り返る。森林県である高知の室戸市には、キトラスの可能性を信じる人々がいた。

よく乾燥させるためヒノキは14年秋、同市吉良川町の森林から約670立方メートルを切り出した。県の予算がつく前だったため、費用約1500万円は、地元企業の「富士鍛工」が負担した。

■作業簡略化、市民も参加 地産地消に県議会が予算

乾燥した丸太の加工は2015年2月から始まった。作業場は、廃校となった水産高校の校舎を利用。デジタル計測し高精度切断で長さをそろえた丸太を並べ、金属接合部を取り付けた。

作業は(1)穴開けとねじの溝づくり(2)樹脂の注入とラグスクリューのねじ込み(3)接合部品の一部「ジョイントコーン」取り付け-の3段階。正確に穴を開ける器具を開発して作業を簡略化した。

トヨタ自動車の生産ラインをお手本に、作業はできるだけ物を動かさないようにもした。室戸市民8人が参加して3756本の部材を2カ月半で仕上げた。作業を請け負った建設会社社長の岩川好美さん(49)は「工程がシンプル。土木作業員や農家、アルバイトなど誰でもできた」と語る。

高知県によると屋内運動場の事業費は周辺整備を含め約15億円。割高感もあるが、地元木材活用と地域の雇用を重視し県議会は予算を承認した。

加工した丸太を組み合わせる球形のジョイントは、鉄の鍛造品だ。室戸市に工場がある山崎機械製作所(滋賀県湖南市)が担当した。このジョイントは昨年度の素形材産業技術賞を受賞している。

十分な強度があるため地面で組み立て、鉄骨のようにクレーンで持ち上げる工法が可能だ。既に兵庫県福崎町の「さるびあドーム」や大津市の「松の実保育園」の遊戯室で利用されている。他の自治体からも問い合わせがあるという。キトラスは耐震補強にも活用できる。鉄骨に比べ軽いため重機は必要ない。見栄えもいい。大阪府池田市の石橋南小学校で実証済みだ。

木の構造物の権威である小松幸平京大名誉教授(68)は「今井さんの仕事に不具合が生じたという話は聞いたことがない」と太鼓判を押した。

SankeiBiz