自伐型林業で森救え! 高知県佐川町が協力隊員採用や専門部署【高知】

b7636b5437d0109a27e79a66eafe7f18山林管理を森林組合などに委託せず、所有者や地域住民らで行う「自伐型林業」が全国的に注目されている。中でも高知県高岡郡佐川町は先駆的な自治体の一つで、伐採や搬出技術などを学びながら林業家を目指す、地域おこし協力隊員「キコリンジャー」を2年前から採用し、役場には専任係を設けている。国も自伐型を地方創生の代表施策に挙げるが、新規従事者が独立し、生計を立てるには数々の課題が見えてくる。日本一の森林県として、自伐型林業が地域の森や未来を切り開いてくれるか―。佐川町の取り組みから探った。

「チェーンソーの“刃”の当て方もいろいろで、作業手順によって変えるんです」

佐川町南部の町有林。2015年4月にキコリンジャー2期生に採用された平井和子さん(50)=愛知県出身=の作業を見学した。細身だが、作業用つなぎにヘルメットをかぶった姿はりりしい「山の女」。手慣れたチェーンソーさばきで、直径約30センチの杉を5分ほどで切り倒した。

平井さんは佐川町に来る以前にも林業関係の仕事に就いていた。人口減に苦しむ中山間地域と荒廃する森林を目の当たりにし、「山林を利用し、地域の再生ができる場所」を探した結果、佐川にやって来た。

■人工林活用探る

森林所有者が山を手入れする「自伐」は、かつてはどこの山間部でも行われていた。ところが、約半世紀前に外材輸入が自由化され、国産材の価格が低下。山主の“山離れ”を招き、森林組合や大規模事業者などに伐採や搬出を頼る「施業委託型」が主流になった。

一方で、低投資で持続可能な森林経営ができる自伐型に“回帰”する動きも出てきた。

全国組織「自伐型林業推進協会」(東京都)の中嶋健造代表理事は、「自伐型を増やそうとしても、国からなかなか相手にされず、自治体の反応に期待した。その中で動きだしたのが佐川町だった」と振り返る。

佐川町は面積の約7割に当たる約7千ヘクタールが山林で、そのうち約5千ヘクタールが杉やヒノキの人工林だが、間伐作業などが行き届かない山林が増えていた。

2013年10月に就任した堀見和道町長は、これらを活用するため、自伐型林業に着目。「土佐の森・救援隊」=文末参照=から佐川町職員らが研修を受け、2014年度に林業専属の地域おこし協力隊員キコリンジャーの採用を始めた。2016年春までに県内外から13人が集まった。

2015年4月には、産業建設課内に自伐型林業推進係を新設しており、2023年度までに延べ50人のキコリンジャーを採用する計画だ。

■地方創生で注目

小規模な投資で地域の雇用も喚起できる自伐型林業は、政府や自民党も関心を持ち始めた。石破茂地方創生担当相は2014年に「地方創生の鍵だ」と国会答弁し、2015年には自民党内に「自伐型林業普及推進議員連盟」(中谷元会長)が結成された。

先駆的に活動を始めた佐川町には2014年度以降、全国から視察が相次ぎ、多くが森林の有効活用を探る中山間地の自治体関係者らだ。

岩手県陸前高田市は視察後、自伐型林業に関する住民調査を行い、6割が「自ら山を手入れしたい」と回答した。陸前高田市は2016年度から、佐川町に倣い、自伐型専属の地域おこし協力隊員を採用するという。

奈良県吉野町でも、2016年度から自伐型推進の部署を新設するなど、全国的な広がりを見せつつある。

キコリンジャーや役場担当者が集う報告会。隊員は2年間で13人に増えた(高知県高岡郡佐川町甲)

キコリンジャーや役場担当者が集う報告会。隊員は2年間で13人に増えた(高知県高岡郡佐川町甲)

■「副業が必要

注目されているとはいえ、林業家として生計を立てるには課題も多い。佐川町のキコリンジャーが役場担当者を交えて5月に開いた会合で、1期生の隊員があるデータを示した。

2016年度、約10人のキコリンジャーが佐川町有林などで伐採し、販売した杉やヒノキは約80立方メートルで総額約50万円。3年間の隊員任期中、技術習得がまず優先され、積極的に出荷はしていないが、その隊員は「任期終了後、独立して林業で生活するには、どれだけ材を出したらいいか。意識してもらうために数字を出した」と打ち明ける。

山を所有しない協力隊員にとって、“糧”を得る山林の確保は独立に直結する。佐川町は、林地集約化を進めている佐川町南部の民有林約40ヘクタールで作業できるよう地主と交渉中だ。将来的には、さらに約200ヘクタールの確保を目指している。

だが、良質で材価が張る杉やヒノキは仁淀川筋の川上の山林に多く、川下に位置する佐川町で、どのくらいの隊員が林業者として独立できるか未知数だ。

自伐型林業推進協の中嶋代表理事は、長年の経験から「自伐型林業家は、1人30ヘクタールの山林があれば、農業など副業と組み合わせで安定した生活ができる」とする。

この計算でいくと、佐川町が240ヘクタールの山林を構えたとしても、8人ほどの生計を支える広さにしかならない。隊員の中には「現状では将来像が描けない。しっかりした副業が必要だ」との声も出ている。

■長期的な視野を

自伐型林業に詳しい九州大大学院森林政策学研究室の佐藤宣子教授は「促成栽培的には自伐林家は育たない。自治体も腰を据えしっかり育成していく必要がある」と、長期的な取り組みを求めた。

仮に個人での独立が難しければ、隊員任期を終えたキコリンジャーを組織化し、会社形態で雇用するなどの方策も考えられる。施業面積を広げるためにも、会社組織にすれば山主からの信頼も得やすいはずだ。

森林面積率が日本一の84%ある高知県。山林資源を高知県全体の宝としてどう生かすか。自伐林業が地方創生の一つの柱に位置付けられた今、佐川町の取り組みを参考に、可能性を探りたい。

◆近年の自伐型林業◆

森林を持続的に管理するため、NPO法人「土佐の森・救援隊」(吾川郡いの町・中嶋健造理事長)が約10年前に提唱し、全国に広めている。2014年6月に全国組織「自伐型林業推進協会」が設立され、林業従事者や自治体関係者など約200人が加盟。高知県での自伐型は、高岡郡佐川町のほか四万十市や宿毛市などで盛ん。高知県内で自伐型を進めるため、2015年1月に「小規模林業推進協議会」が発足し、約300人が参加している。

高知新聞