森の中を歩いて癒やされるという「森林浴」がブームになり、ナント海外でも、「Shinrin-yoku」という日本語のままで知られるようになった。英語では、「forest bathing」とか「forest therapy」と説明されるらしい。
ここまで浸透した「森林浴」だが、もともとは1982年、日本の林野庁が「健康・保養に日本の森林を活用しよう」と提唱した際に使われたキャッチコピーだ。以来健康に良いなどとして多くの人が休日などを利用して森林浴を行ってきた。昨今では直接的に「健康に良い」という研究結果が次々に発表されている。
森の中を歩き、ストレスホルモンが低下
森林浴と健康との関連で医学研究者の目を引きつけたのは、1990年、千葉大学の宮崎良文博士が行った小規模の実験。屋久杉の森の中を午前・午後それぞれ40分ずつ歩き、実験室の中を同じように歩いたときと比べた。
すると、森の中を歩いたときの方がストレスホルモンであるコルチゾールの値が低下したことが分かった。また、指先の血流量は4倍増えたそうだ。これらは、杉が発する揮発性のテルペン類を吸入した結果、自律神経活動が調整されたためと推測されている(※1)。
それ以降、森林浴と健康との関係をテーマにした研究が増えることになる。
森林ツアーで免疫細胞が増大
日本医科大学で森林医学研究を行う李卿氏は、若年男女グループに、3日間にわたって森林の中を散歩し、森林の中央に位置するホテルで滞在するというツアーを行ってもらった。
ツアー前後の血液検査によると、免疫システムに大きな役割を果たすといわれるナチュラルキラー細胞がツアー後に増大していたという。李氏は、「こうした生理学的効果は、樹木から放出されるリモネンなどの揮発性物質を含む空気を吸うことによるものではないか」と考えている(※2)。
ストレス・抑うつ状態の改善から睡眠や活力も改善
また、千葉大学環境健康フィールド科学センターが森林浴を行った500人のデータを分析したところ、森林環境で時間を過ごしたとき、被験者の生理的ストレス、抑うつ症状や敵意が減少し、睡眠や活力が改善したと報告した。
この他の研究でも同じように、ストレスホルモン値や血圧、心拍数の低下が報告されている(※1)。森から採取された音をスペクトル解析で分析すると、脳にアルファ波を出させ、リラックス感を与えるf分の1ゆらぎが認められるのだそうだ。
森の不思議な力、それはフィトンチッド?
森には不思議な力がある。その不思議な力は「フィトンチッド」と名付けられている。
森林浴の効果は、樹木や森林から発散する揮発性物質・テルペン類が要因だと推測する研究者は少なくない。樹木は光合成により酸素を放出するが、同時にテルペン類を作り出す。この物質は、昆虫や微生物から樹木自身を守る殺虫・殺菌作用を発揮するというのだ。
テルペン類に「フィトンチッド」と名付けたのは旧ソ連・レニングラード大学(当時)のB・P・トーキン博士だ。「フィトン」は「植物」、「チッド」は「殺す」が語源になっている(※3)。
森林面積30%のアメリカでは浸透する?
アメリカの国勢調査(2010年)によると、アメリカの人口の81%が都市部に集中しているという。森林が国土の67%を占める日本に比べ、アメリカの森林率は約30%だということから、日本で生まれた「森林浴」というコンセプトは浸透しにくいかもしれない。
だが、森林セラピーの疾患への有効性が徐々に証明されるようになり、世界の研究者の目が集まってきている。今後、森林セラピーとして普及していくことが期待されている。
森林浴は、大きな森にわざわざ出掛けず、樹木の多い公園で時を過ごしても有効だというから、ちょっとストレスがたまってきたなと思ったら、近くの公園に寄ってみるのも良いかもしれない。
※1:Mother Earth News:Your Brain on Nature;Forest Bating and Reduced Stress http://www.motherearthnews.com/natural-health/herbal-remedies/forest-bathing-ze0z1301zgar.aspx
※2:Los Angeles Times:‘Forest bath’ is way to let nature cleanse away stress http://www.latimes.com/health/mentalhealth/la-he-forest-20150221-story.html
※3:フィトンチッドってなんだろう? http://www.phyton-cide.org/info.what.html
参考:学校法人日本医科大学グループ:研究室レポート森林医学 http://home.nms.ac.jp/magazines/ikikenko/kenkyu_forest.html
WRITER: AKINAGA