小さな木片に数百年の歴史と職人の技が宿る。岐阜県中津川市付知町(つけちちょう)の内木(ないき)木工所が作る木曽ヒノキの「四季の箸置き」。春は桜の花びら、夏はアサガオ、秋はイチョウの葉、冬は松をモチーフにした。手に取ると、細かく刻まれた年輪に、大切に守られてきた天然林の大木が目に浮かぶ。
専用のケースにもこだわり、「インテリアとしても使える」。内木盛良(もりろう)社長(56)は胸を張る。
木曽ヒノキは長野県の木曽谷から、中津川を含む「裏木曽」と呼ばれる岐阜県の東濃東部にかけて自生する天然木。やせた土地で寒暖差が大きく、一年に少ししか育たない。だから、木目の詰まった強い材木になる。平均樹齢は三百~四百年。淡くピンクがかった白色と滑らかな肌触り。昨年行われた二十年に一度の伊勢神宮の式年遷宮や名古屋城の本丸御殿の用材にも使われ、一帯は戦前は「御料林」として、現在は国有林として国が管理する。
切り出され、市場に出る木曽ヒノキはごくわずか。業者の間では「官材」と呼ばれ、単位当たりの価格は人工林の銘木「東濃ヒノキ」の数十倍にもなる高級品。四季の箸置きは、柱用の材木などに加工する際に出る端材を使う。六年ほど前、内木さんが「もったいない」と思い付いた。
一個ずつ、すべて職人の手作り。端材の板から糸のこで切り出し、紙やすりで丹念に磨き、塗装する。磨く力を誤ると、表面がけば立ち、せっかくの木目がぼやける。木片ごとに異なる木目を確認しながら、木曽ヒノキの美しさが最も引き立つように削っていく。
東京・銀座で和食居酒屋「わのわ」を営む指田智弘(さしだともひろ)さん(40)は昨年、東京での展示会で「四季の箸置き」を見て、「上品さ」に魅せられ、店用に桜とイチョウ(一セット五個入り)を三セットずつ購入。目の肥えたビジネスマンの常連からも好評で、「箸置きにも気を使い、もてなしの心を示せる」と喜ぶ。
戦後に創業した内木さんの父は曲げわっぱやはけ板を作っていた。良質な森林資源に恵まれた中津川周辺は今も、いくつもの木工所が軒を連ねる。安価な外材に押され、国産材を扱う業者は減っている。内木さんは三年前、少ない木曽ヒノキに代わり、東濃ヒノキなどの木工品の新ブランドも立ち上げた。「この土地の木材を使い、その良さを伝えていきたい」と話す。
(文・写真、山本真嗣)
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岐阜県中津川市の国道257号沿いにある道の駅「花街道付知」では、「四季の箸置き」(定価1セット5個入りで3890円。木製ケース入りは5130円)をはじめ、近辺の木工業者が作るオリジナル商品を買える=写真。
おひつ、おわん、ぐい飲みのほか、神棚、肩たたきバット、孫の手、テレビボード、時計、木曽ヒノキをチップにして香りを楽しむ「木香」もある。地元の商工会にある「つけち木工の会」の会員らが出品。道の駅を運営する付知町振興公社の田口仁美さん(36)によると、箸置きなどの小物やランチョンマットなどが売れ筋。気に入った商品の業者に個別注文する人もいる。問い合わせは付知町振興公社=電0573(82)2000=へ。