「環境」というと、地球温暖化など、いわゆる「環境問題」がまず頭に浮かぶかもしれません。しかし、「環境」は広く捉えれば自分たちの周りにあるもの全てとかんがえることができます。つまり自分の周りにある全ての問題が大きく捉えれば「環境問題」だといえるということです。
とは言っても、地球温暖化や生物多様性、異常気象といった問題はあまりに大きすぎて、自分の周りのこと同じように考えることは難しいでしょう。しかし、自分の周りの小さな問題と、そういった大きな問題は実際に地続きで、そのつながりを捉えることができれば、大きな「環境問題」も自分事として捉えることができるようになるはずなのです。
そのようにして身近なこと、興味のあることから地球環境について考えてみようという映像祭が「グリーンイメージ国際環境映像祭」です。
3月20日から22日に開催されるこの映像祭は、公募によって集められた世界の環境映像作品の中から優れた作品を選び、上映するというもの。第1回となる今回は世界27の国と地域から103作品の応募があり、映画評論家の佐藤忠男さんやNPO法人「日本のもりバイオマスネットワーク」理事長の佐々木豊志さんなどにより審査によって10作品が選定されました。
選ばれた作品は福島第一原発から約70kmのところにある天栄村の放射能汚染への取り組みを記録した原村政樹監督の「天に栄える村」、二酸化炭素の吸収により酸性化する海を調査する研究者を追ったサリー・イングルトン監督の「酸性化する海」、岩手県北上市の岩崎地域に伝わる民俗芸能「岩崎鬼剣舞」の活動を追った三宅流監督の「究竟の地―岩崎鬼剣舞の一年」、経済に翻弄される農民の姿を描いたアルジャン・ウィルシャット監督のアニメーション「農民ジャック」など。
テーマも、手法も、長さも異なる作品が「環境」という大きな問題を様々な側面から捉えています。
その中の一本「酸性化する海」は優れた環境ドキュメンタリーを何本も生み出しているサリー・イングルトン監督の作品。私達が排出する二酸化炭素を海洋が吸収することで、海が酸性化し、生物の生育環境に劇的な変化が生じつつあることを伝える作品です。
あまり広く知られている問題ではないと思いますが、実際に牡蠣の養殖に影響が出たりするなどすでに影響は出始めており、科学者たちはそれに対抗する手段を求め、自然現象によって酸性化が進んでいる海の調査を続けています。海が酸性化するという捉えづらい問題を、一変した海底の風景や、牡蠣の養殖という私たちの生活に近い問題にひきつけて描くことで自分に関係ある問題として捉えることができる作品です。
この映像祭では、来場者がさらに環境を自分事として考えられるように、特別プログラムを開催。ここでは、テーマに沿った映像の上映とシンポジウムを行い、映像制作者や具体的な活動を行ってる人から直接話を聞くことで、より深く問題を掘り下げるとともに、参加者に考えてもらう機会を作ろうという意図が感じられます。
今回は、21日が「身近な発見から冒険へ」、22日が「森林」というテーマ。22日に特別上映される「東北の森から明日を考える―木質バイオマスで広がるエネルギー自立の試み」は、エネルギーの地産地消や間伐材の使い道など、様々な方向から注目が集まる木質ペレットを描いた作品で、木質ペレットを推進するさいかい産業の古川正司さんの講演もあります。
このような環境をテーマにした作品は、優れた作品でもNHKやディスカバリーチャンネルなどの専門チャンネルで放送される以外は、なかなか目に触れる機会もありません。例えば、22日に上映される「クスノキからの贈り物―香りの宝石・樟脳を守る」は作り手がおらず消滅の危機にさらされている「樟脳」を扱ったドキュメンタリーで、地方局RKB毎日放送が制作した作品で、東京では深夜にTBSで放送されただけ。そんな貴重な映像を観るとともに、そんな恵まれない環境であっても真摯に映像制作を続けている制作者の方たちの声を聞く貴重な機会でもあります。
環境問題は重要だけれど、なかなか関心を持ち続けるのが難しいというのが正直なところ。この映像祭は、映像を見たり、話を聞いたりするだけで、関心を持ち続けることもできるし、新しいアイデアや希望も湧いてきそうなので、「環境問題に関心はあるけど…」という方には特にいい機会になるのではないでしょうか。