三重県尾鷲市矢浜の尾鷲木材市場で、製材業者や仲買人にあまり知られていない「雑木」の丸太二本が競りにかけられ、注目を集めた。正体はシイの丸太と分かり、新宮市内の製材業者が落札した。
丸太はどちらも長さ四メートル、直径三十八センチ。樹齢は五十年程度とみられ、雑木であることから枝打ちはされていなかった。一月に、尾鷲市天満浦の道路工事で障害木として撤去され、尾鷲木材市場に搬入された。
尾鷲木材市場では、ヒノキ、スギ、マツ以外の木材は「雑木」として扱われるため、丸太の種類は登録されていなかった。競りが始まると丸太の周囲には買い付けに訪れた仲買人や製材業者十数人が集まり、「この木は何やろ」「この年輪は見たことがない」と不思議そうに見つめていた。
二本の丸太を落札した新宮市の製材業川崎俊一さん(69)によると、シイは毎年十月に和歌山と三重の県境を流れる熊野川で開かれる、木造船九隻が速さを競う神事「早船競漕(きょうそう)」のオール「櫂(かい)」の材料として需要があるという。
神事に使われる櫂は長さ約一・九メートル。水に強く割れにくいことから、昔からシイが素材に使われている。川崎さんは「シイは数が少なく、最近は手に入れるのが難しい。めったに見ない立派な丸太なので、十数本の櫂が作れるのではないか」と笑顔で話した。
(宮崎正嗣)