ずらりと居並ぶ、ソファ、チェア、テーブル、棚などの家具。ぬくもりある木の質感と、普遍的でありながら細部にまで工夫をこらしたデザインには、思わず触れたくなる引力がある。
これらの家具を手がけたのは、GAUZY CALM WORKS(ガージー・カーム・ワークス、以下GCW)。2010年創設の新進家具メーカーにして、オーダーメイドでデザインから製作まで一貫して行うスタイルで注目を集めている。代表の木村亮三さん(33)は茅ヶ崎市出身。その縁もあり、GCWは2月9日までokebaギャラリー&ショップ(茅ヶ崎市香川7の10の7)で初めての単独展示会を開いている。「茅ヶ崎を離れて15年の節目。お世話になった方々へ少しでも恩返しできれば」と木村さんは凱旋展示に思いを込める。
茅ヶ崎で木々と出会い旭川でものづくりを学ぶ
木村さんは3歳から18歳まで茅ヶ崎の地で育った。香川や堤などの豊かな自然環境の中で、自ずと木々に慣れ親しんだという。
「木には、人の心を和らげる力がある。それも子供の頃に周囲の雑木林で遊んだ経験から学んだこと。茅ヶ崎の木々が、職人としての自分の原風景です」
北陽中時代に早くも木工職人を志し、鶴嶺高卒業後に木工で知られる旭川へ。高等技術専門学院の職業造形デザイン科で学ぶうちに家具づくりの面白さに目覚めていったという。
「家具はパターンが無限。一生をかけるに値する仕事だと思えました」
ビジョンが定まり、腕を磨き続けた。在学中の2000年には技能五輪全国大会の家具部門で優勝。卒業後、木製特注家具メーカーに入社し、様々な家具を手がけた。プライベートでも結婚し、双子が生まれた。順風満帆、に見えた。
家具は生活ありき楽しさ掲げリスタート
だが、長く家具メーカーで勤め評価を高める一方で、どこかモヤモヤとしたものを感じるようになった。次第に家具以外のことが頭にちらつくようになり、一転リフォームを学ぶために専門学校に入った。「リセットするつもりで」新たな道を選んだが、そこで再認識したのは”家具職人としての木村亮三”だったという。
「例えばリフォーム系の雑誌を見ていても、目につくのは家具ばかり。それとリフォームで使われる木は柔らかく、家具用の硬く骨太の広葉樹と比べると物足りなかった」
腕がうずいた。再び家具職人として起つ覚悟が固まり、学校を中退。間髪入れずにGCWを設立した。そこで木村さんが掲げたのは”自分たちが楽しいものづくり”だ。
「作り手が楽しくなければ、家具の良さも伝わらない。機械的にならないよう、常に新しいエッセンスを意識しています」
製作では上質な木材のみ使用し、オイルを塗りこんで仕上げる。表面に膜を張らないため、本来の木の表情が表現できるという。こうして、これまで店舗や一般住居の家具から昆虫のカゴまで、あらゆる製品を手がけてきた。
強いこだわりの一方で、重視するのはユーザーのライフスタイルだ。
「生活あっての家具。それぞれのライフスタイルや価値観に合う家具をお作りすることが、我々のものづくりです。だからこそ、オーダーメイドで一点モノを提供している」とその信条は立ち上げ当初から現在まで揺るぎない。GCWの家具から滲むぬくもりは、木という素材だけでなく、職人の想いがもたらしているのだろう。
現在、GCWは工場長の原弘治さんと文教大学出身の日下雄介さんの3人で活動している。GCWという名は、ガーゼのように白い雪が降る旭川で、静寂の下ひたむきにものづくりを行う職人たちをイメージしたもの。トレンドや効率性といった耳障りの良いノイズをシャットアウトし、これからも純粋に家具づくりに打ち込んでいくに違いない。