小国の森 町に活気を【山形】

ダウンロード∽ ドイツ保養地専門家がセミナー 「けもの道、増やそう」

【西尾邦明】マタギたちがクマの冥福を祈る「熊まつり」で知られる小国町小玉川(こ・たま・がわ)地区の住人たちが自然資源を生かした地域づくりに力を入れている。日本有数のブナ林「温身平(ぬく・み・だいら)」やマタギの精神文化を活用して交流人口を増やし、過疎化対策にもつなげたい考えだ。

「けもの道は楽しいし、気持ちもいい。じゃり道ではなく、けもの道を増やして魅力を高めましょう」

小玉川で今秋あったセミナーで、講師の小関信行さん(58)が指南した。小関さんは野山や温泉などを活用したドイツの健康保養地「クアオルト」の専門家だ。この日は、温身平のけもの道を住人らと歩き、活用を話し合った。

温身平の散策路は約5・5キロ。玉川のせせらぎを耳に、ブナやミズナラの原生林に囲まれた道を散策できる。森林には癒やしの効果があるとされ、2006年に全国初の「森林セラピー基地」の認定を受けた。近くには飯豊温泉と山菜料理が自慢の国民宿舎「飯豊梅花皮(かいらぎ)荘」もある。

だが、そんな小玉川で今年、異変があった。原発事故の影響で5月の「熊まつり」の目玉「熊汁」を販売できなかったのだ。風評被害も重なり、人出は平年より千人少ない1500人だった。

さらに、冬の積雪が4メートルを超える地区の過疎化は深刻だ。小国町によると、地区にはもともと88世帯423人いたが、現在は44世帯140人。小学校も2008年に閉校した。住民団体「小玉川地区自然教育圏整備促進協議会」の本間泰輔会長(60)は「小玉川という独立国をつくるぐらいの思いでやらないと地区の存続が危ない。観光と住人の健康づくりの両面で、温身平などの自然環境を活用したい」と意気込む。

国も過疎が深刻な集落をどう維持していくかの検討を進めている。国土交通省はこの夏、全国12カ所を「小さな拠点」づくりモニター調査地域に選んだ。小玉川もその一つで、過疎の現状を詳しく調べ、地域の将来像の話し合いを支援する。今秋のセミナーはその第一弾だった。

小国町出身の山形市の建築家、本間利雄さん(82)はこの辺りのブナ林の魅力についてこう話す。「何カ月も準備した建築案がコンペで落とされ、失意のどん底にいる時、誰にも言わずに1人で歩くと、元気と勇気がわくんだね」。全国の建築仲間とも何度も歩いた。

小玉川地区の住人たちは今後も、クアオルトによるまちづくりを進める上山市で学んだり、地区を出た人との意見交換をしたりする予定だ。

朝日新聞デジタル