木曽地方に分布する天然の「木曽ヒノキ」など貴重な針葉樹林を次世代に継承しようと、中部森林管理局(長野市)は、モデルとなるエリアを設定し木を守り育てる新たな試みを始める。三百年先の森づくりを見据え、長年の伐採で減少した森林資源を保護、復元する。
「生態系として危機的な状況。何らかのアクションが必要だ」。長野市の中部森林管理局で九月に開かれた有識者検討委の初回。委員の一人、森林総研関西支所の大住克博主任研究員が語気を強めた。
世界各地の針葉樹林の歴史を調べた大住研究員は、「木曽のようにまとまって良材が残る地域は世界的にも珍しい」と指摘。過伐採などで森林資源が枯渇した他国の例を挙げ、「放置すれば、木曽も同じ道をたどる可能性はある」と述べた。
木曽地方の針葉樹林の中でも、樹齢百五十年以上の天然のヒノキを指す「木曽ヒノキ」は、曲がりにくく割れにくい最高級材として、神社仏閣の建立などに使われる。
しかし、長年の伐採によって量を減らしており、希少性が高まっている。このため、管理局は木曽ヒノキを保護することを主眼に、検討委を設置した。
管理局によると、木曽地方の国有林に植生する木曽ヒノキは、一九七七年度末で東京ドーム約四杯分に当たる五百十万立方メートルだったが、二〇一一年度末には約二杯半分の三百二十五万立方メートルと三十年余りで35%も減った。
減少の背景には、他の樹種で替えが効かない木曽ヒノキの品質の高さがある。昨年度は十年前から三分の一程度に伐採量を減らしたが、それでも需要が絶えないため、伐採をゼロに近づけることは難しく、減少に歯止めがかからない状況だ。
「伝統的な祭礼や文化財の補修には必要。地元経済とのつながりも深く、今よりさらに伐採を制限するのは困難」(管理局関係者)と内情を明かす。樹齢二百~三百年の古い木が多く、一年間に木が太る量が少ないことも、減少に拍車をかけている。
管理局は初回の検討委で、保護の対象となるモデルエリアを設定し、さらに、エリア内で保護の優先度に応じて三つの区域に分ける案を提示した。
人の手が入るのを排除し、厳格に天然林を保存する「保護区域」と、人工林と混交した「復元区域」を緩衝帯として周辺に置き、さらにその外には人工林主体の「調整区域」を設ける案だ。
対象エリアは、木曽ヒノキが集積する上松町や王滝村、大桑村周辺から岐阜県中津川市の通称「神宮備林」にかけての県境をまたいだ一帯とみられる。検討委は年度内に詳細なエリアを設定し、木曽ヒノキの持続可能な伐採のあり方を模索する。
成果が出るまでには時間がかかり、数世代にわたる地道な取り組みが必要になる。委員の一人は「三百年前の江戸時代から大切に保護されてきたおかげでいまの木曽ヒノキがある。私たちの後の世代が評価してくれる仕事をしていかなければいけない」と語った。