◇木材価格、低迷に苦慮--実情に合った方針を
県中部の久万高原町には、スギやヒノキの美しい山林が広がる。しかし、幹線道路からふもとの木と木の間に見える地肌には、切り倒された木々がそのまま放置されている。
「間伐しても、搬出したらその木材以上の費用がかかる。だからそのままなんです」。「久万広域森林組合・久万市場」(同町)の中嶋吉夫所長は、木材の価格低迷が、山林の荒廃を招いている現状を説明する。間伐材を市場まで搬出する費用は、1立方メートル当たり8000円。木材価格がそれ以下ならば、当然、搬出するだけ赤字になる。中嶋所長は話を続けた。「お金にならなければ、(林業従事者の)やる気も上がらない。山の整備だって進まないですよ」。
込み合った森林から曲がった木、弱った木を取り除く間伐は、森林の環境保全に必要不可欠な作業だ。怠ると日光が樹木の足元に届かず、動植物の生育に悪影響があるだけではなく、植物が深く根を張らないため、土砂崩れなど災害も誘発する。
愛媛県は、ヒノキの生産量は日本一、スギでも常に全国上位を誇る全国有数の林業県。しかし林業関係者は、木材の価格の低迷に苦しめられ続けている。県内の木材平均価格は今年、1立方メートル当たりスギが約9800円、ヒノキが約1万7000円で、約20年前の半額以下。林業従事者も、現在県内では約1100人で、約20年前の半分、25年前の3分の1にまで減った。
原因は、住宅着工戸数の減少と、木材自給率がわずか28%という安い輸入材の流入。
「林業って、日本に必要なんですかね」。林業にかかわって20年以上という中嶋所長が自嘲(じちょう)気味につぶやく。
マニフェストでは、民主党は昨年の衆院選で、間伐など森林整備費用相当額を交付する「森林管理・環境保全直接支払制度」の導入を盛り込んだ。一方、自民党も今年の参院選で、間伐や路網整備にかかる森林所有者の負担軽減のため、「直接支払い制度をつくる」とうたった。
しかし、中嶋所長は「間伐の費用が支払われて、木材がどんどん搬出されたとしても、今のままでは価格が暴落するだけ。需要を増やさなければ意味がない」と懐疑的だ。
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政権交代後、農林水産省では、昨年12月から「森林・林業再生プラン」を検討している。需要喚起や人材育成、制度の整備を柱に、木材自給率を50%まで引き上げる狙いだ。
かつて他の若手林業家とともに、林業活性化を目指す「上浮穴青年林業会議」を立ち上げた同町、林業、梶川嘉徳さん(52)は、「(今の林業は)戦前からの制度に継ぎ足しし、いわば腐った幹に接ぎ木をしている状態。現場は国から出された補助金メニューを選ぶしかなかった」と総括。改革の動きについて「根本から制度が変わるのであれば大歓迎だ」と評価しながらも、「国と地域の予算と権限の配分を考え直し、地域のリードで各地の実情に合った方針を取るべきだ」と訴えた。
毎日新聞(2010.7.3)より