北海道勇払郡安平町の追分小学校校庭の一画に広がる森林の歩みを、札幌市の農学博士で北大名誉教授の東三郎さん(87)が本にまとめ、同校に寄贈した。約20年前の同校開校100周年の記念で植えた木々の成長を記録した内容で、当時、植え方を指導したのが東さんだった。自然に委ねて森に育つかを試す実験の意味もあったと言う東さんは今、緑豊かになった光景を見て、「助け合って生きる」との森のメッセージをかみしめていた。
本は「森の始まり―想像から創造へ」と題し、表紙には1994年10月の記念植樹に取り組む児童や保護者の姿を切り取った写真が使われている。
今春、東さんの所に、追分小から森を記録した写真データが届いた。学校側が、東さんの知人から東さんが森の状態を気にしていることを聞き、今の様子を収めた写真を送ったという。東さんが自ら学校を訪れ、観察していたのは5~6年前までで、久しぶりに森を見て実験の成功を実感し、喜びも沸いたという。
こうしたきっかけが重なり、東さんは報告書の制作を決意。体調の関係で自らは現地に行けないので、学校側に協力を依頼し、必要な写真を撮影してもらった他、民間の林業業者を活用して、樹木の生育状況も調べた。
本は、縦21センチ、横15センチの大きさで、奥付までで全62ページ。「子どもに読んでもらおう」と考え、文章は短く、優しい表現にし、字も大きくした。今回撮影した写真だけでなく、東さん所有の写真も使って、イラストや、表を交えて編集した。
東さんは当時、旧追分町の廃校になった小学校で森づくりを研究していた縁で、追分小の記念植樹の相談を受け、自分の「手を掛けないで森にする」という実験も踏まえて指導に当たった。
草刈りもせず、自然の循環に委ねた生育法を取り入れた結果、今年6月の調査で、ミズナラやカツラ、カシワ、ハルニレなど135本を植えたうち、125本が残っていた、という。
「植え方に配慮すれば、あとは助け合って生きていく。これを子どもたちと一緒に取り組めたことが、うれしかった」と東さん。一見無駄に思えることにも、価値があることを認める。「現代にも、必要な物の見方では」と投げ掛けていた。
本は3000冊印刷。追分小には8月までに500冊を寄贈し、全児童に配布された。種田直章校長は「ここまで情熱を持って子どもたちのためにやってもらい、感謝している」と話していた。同校では希望者に本を無料提供もしている。