香川県小豆島町の醤油(しょうゆ)蔵の社長と地元の大工が、醸造用の大型木桶(きおけ)を初めて自作した。戦後、合成樹脂製のタンクを使った大量生産が普及し、島内で桶作りが途絶えて約60年。「昔ながらの味を絶やしたくない」と、大型木桶を全国で唯一作り続ける大阪堺市の工房に技術を学び、高さ2メートル、直径1・7メートルの新桶を完成させた。(藤本幸大)
醤油蔵が立ち並ぶ小豆島町安田にある幕末創業の「ヤマロク醤油」。「いち、に、さんっ」とかけ声が響いた。竹で編んだタガを、桶の周囲に金づちでたたいてはめていく作業だ。
大詰めを迎えた頃、5代目社長の山本康夫さん(40)が「あかん。タガを作り直そう」と切り出した。作業中に竹の一部が傷んだためだ。「100年使い続けることを考えたら、妥協はできない」
使い続けた木桶には、多くの乳酸菌や酵母菌がすみつき、蔵によって違う濃厚な味わいをもたらす。ヤマロクは木桶約60本だけで醸造しているが、大半が戦前に作られ、あと50年もすれば“寿命”を迎える。
山本さんは2009年、堺市の工房「藤井製桶所」に新桶を戦後初めて発注。昨年までに計12本を作ってもらったが、その過程で工房にも後継者がいないと知った。
「今、技術を受け継がないと、木桶の味を守れなくなる」と弟子入りを志願。昨年1月、島の大工、坂口直人さん(40)と三宅真一さん(37)を誘って桶作りに参加し、基本的な技術を学んだ。
今回は、工房の手を一切借りなかった。杉板約40枚を削って湾曲させ、つなぎ合わせて丸い側面を作り、竹のタガ7本で固定した後、底板をはめ込む。
板の削り方にも、桶のサイズに合うタガを4本の竹で編む作業にも独特のカンが必要だ。木工はお手のものの坂口さんと三宅さんも「加減が難しい」。試行錯誤しながら2週間をかけ、先週末に完成させた。
作業には、ヤマロクの味にほれ込んでいるという前橋市の醤油販売業、高橋万太郎さん(33)も駆けつけ、手伝った。「伝統の味を守るのは売る側にとっても大切なこと」と話す。
桶は今後、約4か月水を張ってアク抜きをし、醤油を塗って菌をすみつかせた後で仕込みに使う。
島には21の蔵元があり、古い木桶が約1000本残る。山本さんは「将来は修理や桶職人の育成も手がけ、桶仕込みの味を子や孫の代に伝えたい」と話している。
2013年9月25日 読売新聞