萩の竹 森の邪魔者から救世主へ ep.1

2010年、俳優の伊勢谷友介(37)がNHKの大河ドラマ『龍馬伝』で高杉晋作役を演じた。その後、萩市から、

「高杉晋作の銅像の除幕式に出席していただけませんか?」

と打診を受けた。ドラマで演じているのはあくまでも〈役〉であり、俳優として頼まれたのであれば断るつもりでいた。だが、もう一つの顔である、リバースプロジェクト代表としてなら、萩市のために役に立てることがあるかもしれない。そう考え直して、萩を訪れることにした。

観光客の減少、若者の流出、街の過疎化――。二重三重にも重なる課題をどう解決すればいいのか。対策を模索する現地の人たちと話をする中で、伊勢谷のなかに沸きあがってくる思いがあった。

「萩にイノベーションをもたらす若い人材を育てたい」

そこで、現代版・松下村塾として萩市が始めた「萩・維新塾」に、リバースプロジェクトとして参画することを決めた。翌年5月、萩の若者を受講生に迎え、一緒に町づくりを体感するプロジェクトを始めた。名づけて「HAGInovation〈論〉2011」。

伊勢谷はこのプロジェクトのために何度も萩に足を運ぶうち、地元の青年会議所の若者がユニークな会社にいることを知った。100%地元産の竹を使ったオリジナルデザイン家具をつくる、「TAKE Create Hagi」というベンチャー企業だ。

同社は2006年に設立され、テーブルや椅子などの大物家具からトレイなどのインテリア小物まで、幅広い製品を製造している。独自の「曲げ加工技術」を開発し、国内外のデザイナーと組んで新しいデザイン家具を生み出し、木材産業で知られるフィンランドから注文を受けるまでになっていた。

もともとは、萩市が抱える「難題」と向き合うことで、製品開発のアイデアが浮かんだのだ、とジェネラルマネージャーの伊藤衛(53)は言う。

「竹は成長が早く、伸び放題にしていると周辺にぐんぐん地下茎や枝葉を伸ばしていく。そうすると、森林に光が入らなくなって森が荒れてしまう。だから『森のギャング』とも呼ばれているんです」

なかでも、特に繁殖力が強いのが、萩市周辺に多く自生する孟宗竹だ。山を見渡せば、濃い緑の茂みから「もこっ」と段違いに突き出た、やや黄みがかった植生群が10~20メートル級の木々を飲み込むかのように背を伸ばしている。

このマイナスをプラスへ転換するにはどうしたらいいか。考えぬいた結果、新たなエコ製品として竹資源を活用するという、同社のビジネスモデルに結びついた。

「今までにない竹の需要を作れば、森林整備の雇用が生まれ、森に人の手も入る。原料の調達から生産、加工に至るまで一貫して生産することで地場産業まで活性化できる。そんな一石何鳥もの『物語』に、私たちは賭けてみようと思ったのです」(伊藤)

竹はもともと「エコ」な素材だ。3~5年ほどで木と同じ高さに達する。伐採まで20~30年かかる木材と比べて、光合成による二酸化炭素の吸収効率もいい。竹害を超え、山の環境保全が進めば、地球環境の循環にも寄与する。利用の仕方次第では、究極のエコ素材になりうるというわけだ。

この循環のモデルが、〈人間が作り出してきた生活環境、社会環境を見つめ直し、未来における生活を新たなビジネスモデルとともに創造していくこと〉というリバースプロジェクトの理念と合致。確かな竹の技術を持つTAKE Create Hagiと、デザインや広報活動を得意とするリバースプロジェクトが提携し、12年に「Take-REBIRTH(テイクリバース)」プロジェクトを立ち上げた。

何と言っても、他にない竹の特性は「しなる」。それでいて「強くて割れにくい」。Take-REBIRTHのデザインを担当した、プロダクトデザイナーの平社直樹(39)は、その魅力をこう語った。

「単に木材の代替ができ、エコというだけでは魅力を感じない。竹の強さと弾力性が生む、シンプルでしなやかな『カタチ』こそが、僕らの創作意欲を駆り立てるのです。人を喜ばせる美しいカタチと、背後にある〈自然保護〉〈地域の雇用創出〉といったストーリーが合わさることで、今までにない価値が生まれてくるのだと思っています」

=敬称略(つづく)(ライター 古川雅子)

「TAKE Create Hagi」 http://www.hagi-take.co.jp

「Take-REBIRTH」 http://item.rakuten.co.jp/tch-corp/c/0000000129/

朝日新聞