皆地笠 ワシが守る

田辺・芝さん89歳 唯一の継承者・10日 熊野本宮館で製作実演


熊野詣での時に頭にかぶるものといえば「皆地笠(みなちがさ)」。紀南地方の土産物としても知られるが、伝統の技法を受け継いでいるのはたった一人、田辺市本宮町皆地の芝安雄さん(89)だけ。芝さんの展覧会がいま、同市の世界遺産熊野本宮館で開かれている。7月10日には制作の実演が予定されている。(杉山敏夫)
芝さんが住む皆地地区は、熊野本宮大社にほど近い山あいにある。
笠は男女、身分を選ばないことから「貴賤笠(きせんがさ)」とも呼ばれていたが、皆地地区に隠れ住んだ平家の落人たちが作った笠を熊野詣での人たちがかぶったことから、皆地笠の呼び名が広まったという。
芝さんはこの道約60年という。若い頃は多くの家庭で皆地笠を作っていて、編み方は見よう見まねで知っていた。大正時代までは職人らの組合があり、農作業用として四国、九州などにも出荷していた。だが、笠だけでは食べていけず、多くの人が奈良県などに森林作業員として出稼ぎに出るようになった。そして、いつの間にか跡を継ぐ人がいなくなり、とうとう芝さん一人になった。
素材は樹齢70~80年のヒノキ。伐採したての生木に特殊なカンナをかけ、長さ約60センチ、幅1センチの「ひよ」を削り出す。これを約半年間乾燥させる。「この『ひよ』が大事で、編んでいるとずれたりすることがある。そうしたらもう一度、一から作業することに」と芝さん。笠を一つ作るのに「ひよ」を約120本使う。根気のいる仕事だ。
「ヒノキはね、油分があって、水気をはじく。雨よけには最適。かぶっても風通しがいいから涼しい。それに丈夫で軽い」
持ってみると麦わら帽子より軽く、ヒノキの香りが心地よい。使っているうちに飴(あめ)色に変わる。普通に使うと約6年は持つという。
「年なのでいつまでできるかわからないけど、元気でいるうちは作り続ける。買った人の喜んだ顔がうれしいから」。そう言うと芝さんはピーンと背筋を伸ばした。
展覧会は7月31日まで、世界遺産熊野本宮館(0735・42・0751)の北棟企画展示コーナーで。皆地笠のほかに、比叡山の千日回峰の行者がかぶる阿闍梨笠(あじゃりがさ)や、茶室などにかける一輪挿しなど計約30点を展示している。実演は10日午前10時~午後3時。入場無料。

asahi.com My Town 和歌山(2010.7.2)より


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