野口健 「地球温暖化対策」はどこへ消えたのか

trd13080815310008-n1この夏、日本の気候がどうもおかしい。ゲリラ豪雨や落雷による災害が相次いでいる。専門家からは気候変動の影響ではないかとの声も。日本だけではない。ヒマラヤも温暖化の影響により氷河の融解が大きな問題となっている。氷河が急激に融(と)けることにより流れ出した水が急激に氷河湖を拡大させ、時に決壊するケースも。約10年前からヒマラヤの氷河融解問題を訴えてきたが「伝える」ことと「伝えきる」ことの違いを痛感させられた。

例えば平成20年、洞爺湖サミットの時は気候変動が主要テーマとなったこともあり注目された。ヒマラヤの氷河融解問題も話題に上がるようになった。しかし、サミットが終わると世の中の関心からスーと薄れていく。そして3・11の原発事故により温暖化対策は完全にトーンダウン。

鳩山政権が打ち出した事実上の国際公約であるマイナス25%の根拠は原発依存を3割から5割に引き上げることだった。温暖化対策のひとつとして原発が注目されたがその肝心の原発が事故を起こし根底からひっくり返ったのだ。またあの未曽有の大震災に温暖化対策どころではなくなったのだろう。

そしてヒマラヤの問題は世の中から完全に忘れられていった。そんな中、昨年5月にヒマラヤで大規模な洪水が発生。ネパールのメディアは氷河の崩壊により川がせき止められ、氾濫したのだろうと報じた。直後に私もその現場に飛んだがいくつもの村が跡形もなく消えていた。そして下流では犠牲者の遺体がちぎれて散乱していた。女の子の頭部が河原から発見され、運ばれてきたが、頭部のみとなった彼女の表情はひたすらに残酷だった。

あの現場で感じたことは危機意識を持ち続けることの難しさ。人々の危機感は長続きしない。何かことが起きればその瞬間は注目されるもののすぐに忘れてしまう。そして忘れた頃に悲劇は繰り返されてしまうのだ。

温暖化はエネルギー問題であり、大量のエネルギーを日々消費しているわれわれは当事者であるということを自覚しなければならない。

プロフィル野口健

のぐち・けん アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化など環境問題、戦没者の遺骨収集など、幅広いジャンルで活躍している。

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