林業を通じて地域活性に取り組む高知大学大学院の井上将太さん(ハイパー学生のアタマの中 Vol.11 林業を通じて未来の日本を考える地域活性化の伝道師)

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2012.3.23. Yahoo!ニュース
ハイパー学生のアタマの中 Vol.11
林業を通じて未来の日本を考える地域活性化の伝道師

■常に受け身だった自分が、林業と出合って180度変わった

僕の住む高知県は、森林率が84パーセントと、実は日本一高い。つまり、平地が16パーセントしかないことを意味します。かつお、桂浜、坂本龍馬といったイメージが強いために「海の県」だと思われがちですが、実は森の恵みに頼っている部分が大きいんです。しかも、僕の実家は建築業を営んでいたため、小さいころから大工さんが木材を手で加工するような「木に携わる仕事」を間近で見ていました。気がついたら、木の素材などにも興味を持っていましたね。

さらに地元のことを調べていくと、高知にはこれといった強みとなる製造業がほかになく、豊富にある木を生かした産業を大事にしていかないといけないのではと考えるようになったんです。それで、木や森について勉強してみようと、高知大学の農学部に進学しました。

大きな転機となったのが、大学1年生の9月に参加したインターンシップです。入学以来、座学での勉強が続いていたことにちょっと物足りなさを感じていて(笑)、「現場を見たい!」と飛び込んだのが、高知県北部の嶺北地域にある製材会社。1カ月間住み込みで働き、「SGEC(Sustainable Green Ecosystem Council)」という緑の循環を目指した森林認証に必要な申請書類の作成業務に取り組みました。自然に配慮した木材生産を行っていることを書類にまとめるには、実際に現場で木材を加工する様子を見て、製造過程をきちんと学ばなくてはいけません。そこで、木を使った仕事の現場を知り、俄然興味がわいたんです。

そこからは驚くくらい、人との出会いが僕の活動を広げてくれました。インターンシップ先の社長に連れられて、行政主催の森林環境税の見直しプロジェクトに参加した際に、「学校教育や課外活動など、子どもたちのための環境教育に公的資金をきちんと使うべきだ」と日ごろから思っていることを話したところ、「代表として県に意見を提出してこい」という話になって(笑)。それをきっかけに、環境教育について自分ももっと取り組みたいと思うようになり、大学の仲間に声をかけて「森の未来に出会う旅」というセミナーの企画・運営も行いました。

こうした活動を通じて森林に詳しい方々と知り合いになれたことで、森林の成長を促し、木を真っすぐ育てるために必要な間伐を行うボランティアにも携わるようになったし、経済産業省主催のチャレンジコミュニティープロジェクト(ベンチャー企業の人材育成モデルを地域活性に生かそうというインターンシッププログラム)に参加したり。高知県内だけでなく、例えば東京までプレゼンしに行く機会を与えてもらうなど、全国に視野を広げるきっかけを与えてもらいました。また、林業以外にも、次世代の人材育成の一つとして高知市の都市部のまちづくりプロジェクトに参加し、子どもの職業体験やまちづくり体験の企画にもかかわることができました。

実は、大学院への進学を機に、インターンシップ以来、かかわることが多かった高知北部の嶺北地域に移住したんです。嶺北地域は林業の産地として有名な場所。違う角度から高知の森林に触れることで、「何か次の仕事につなげたい」いう思いと、「本当に地域活性にかかわろうと思ったら、中に入って住んでみて、生活者の視点から見た地域について知らなければわからない」と思ったことも大きな理由です。そこで最初に出合ったのが、今の僕の活動基盤となっている「ばうむ」。嶺北地域の資源を有効活用しながら、地域に雇用と所得を生み出す活動を続けている合同会社です。僕は、木材を使って作られた商品の企画や、県内外への営業を任されています。

移住し、「ばうむ」にかかわるようになってから、冷静に高知県や林業、日本や地方の将来について考えることが増えました。高知県の高齢者比率は全国でも高く、しかも嶺北地域にいたっては人口の約半分を65歳以上が占めています。高知県全体に自給自足の習慣は根強く残っており、少し前まで大手コンビニや外食チェーンも参入していなかったほどです。県内に関連企業がないため、数年前にあったトヨタ自動車の好景気もまったく蚊帳の外。僕が言うのも何ですが、ずっと不況が続いているような雰囲気です。でも、それほど外的要因からの影響を受けにくく、かつ自給自足が可能な場所なら、人々の暮らし方をもう少し工夫することで、実は相当面白い場所になるんじゃないかと思うんです。ものすごく田舎だし、グローバルとは対極にあるかもしれないけれど、そんな場所だからこそできる何かがあるんじゃないか。その可能性を考えることが、僕の大きなモチベーションになっていると思います。だから、「ばうむ」で取り組んでいるように、林業、そして木材製品をアピールしていくことが僕にとってはとても大事なことなんです。

僕は今も昔も、結構ちゃらんぽらんな性格です。でも、林業や地域活性にどっぷりつかり、活動を始めてからは、ものの考え方が180度変わったと思います。ずっと受け身で生きてきたのに、今は主体的に動くことが楽しいと気づきました。自分から行動を起こせば世界が広がるし、たくさんの素晴らしい出会いがある。僕の役割は、出会った人たちの持つ素晴らしいアイデアをうまくつなげてかたちにすること。人とのかかわりの中で自分の役割を認識して、「今やるべきこと」に取り組んでいるだけだから、「やりたいことがない」なんて思うことはないんですよ。

■20年後を意識して、「産地のリーダー」を育成していきたい

将来については、いろいろな道を模索しています。その中で一つ、具体的にイメージしているのは、林業にかかわる「山」「加工者」「家を建てる人」「顧客」という4つを、もっとうまく有機的につなげていく活動です。これらをうまく連携させないと、今、僕がかかわっているような多くの中小企業は共倒れしてしまい、結果として林業を取り巻く全体に悪影響を及ぼすのではないかと思うんです。設計士を志す若者に木の素晴らしさを伝えていく活動を継続することも一つの方法ですし、家業を継いで家を建てる側から何か仕かけていく方法もあるでしょう。現在の活動の延長線上で、コンサルタント的な役割からシステム作りをしていく道もあると思っています。

その背景にあるのは、仮に20年後、僕たちが40歳くらいになったときに林業がどうなっているのかという危機感です。おそらく今のままでは、多くの企業は後継ぎがなく、技術や伝統を引き継いでいく担い手が激減しているでしょう。広い視点で林業のことを考えられるリーダーが育っていなければ、産業としての将来性にも期待が持てません。

少なくとも、こうした危機感は、日本中にたくさんある林業地のどこにでも当てはまる課題だと思います。そこにきちんと目を向けられるような人材になることが、今後、大学院で勉強していくことの目的の一つではないかと思っています。そして、僕自身がリーダーになっていけたらという気持ちもあります。

今できることを考えた結果、同世代で林業に興味のある若手人材を対象に、「若手林業ビジネスサミット」というイベントを2011年に実施しました。公募の結果、日本中から学生を含めて40人ほどが集まりました。こうした連携をきっかけに、経営意識を持ってビジネスとして林業に携わりながら、「産地のリーダー」になっていける人材をもっと増やしていけたらいいなと思っています。今後、この取り組みは力を入れていきたいと考えているんです。

そうやって同世代の人たちとかかわりながら、僕なりに感じていることは、たくさんの人に会うことは、自分の価値観や考え方をつくるために最も必要だということです。結局、今の時代って、明日がどうなるかわかりませんよね。だから、自分自身がどんな指針のもとに動いていくのかをしっかり持っておかないと、どんなにスキルを身につけようと思っても、結局は軸がブレてしまうと思うんです。たくさんの人に会って、いろんな生き方を知り、自分の糧にしていく。多感な20歳前後だからこそ、そういう意識が大事なんじゃないかと思います。


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