大震災・安心の行方:「森の防波堤」急浮上 植樹に液状化土砂活用、強い街に /千葉

2011年9月14日
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 ◇液状化で噴出した大量の土砂、植樹に活用--横国大・宮脇名誉教授が提唱
 東日本大震災による液状化で地面から噴き出た土砂の処分に、頭を悩ませている県内の自治体が多い。

 なかでも深刻なのが、市域の8割以上が液状化し、最も被害が深刻な浦安市。市によると、液状化で噴出した砂は約7万5000立方メートル。10トントラック約1万700台分で、市内の仮置き場には20メートル近く積まれた「山々」が連なり、一部にはブルーシートがかかる。震災からすでに半年。斜面は雑草に覆われたところもある。

 噴砂は、しゅんせつした東京湾の海底の砂をそのまま埋め立てに使ったものが多く、粒が細かい。少しの風で舞い上がり、処分費や運搬費もかかる。

 市は、道路工事の際の埋め戻し材としての活用のほか、人工浜に運び渚を大きくする養浜や、しゅんせつしすぎた湾内の深い部分に流し込むなどの用途を検討したが、いずれも、現在積み上がっているような規模の大量の砂を、一気に処理することはできないことだけははっきりしていた。◇  ◇  ◇

 抜本的な対策が見つからない中で、最近になってにわかに浮上してきたのが「森の防波堤」だ。

 横浜国大の宮脇昭名誉教授(83)=植物生態学=が提唱するもので、大震災で発生したがれきと噴砂などを混ぜた盛り土で、海岸沿いにかまぼこ状の堤防を造成し、土地の植生に合った樹木を植え、堤防を構築するというものだ。

 宮脇名誉教授によれば、がれきを抱え込むように木の根をはわせれば、堤自体の強度も高められる。幅30~100メートル、高さ10~30メートル程度の規模の堤防上に、順調にいけば、十数年後には、高さ40~50メートルの緑の森が育つ。普段は公園など、市民の憩いのスペースとして活用される一方で、風や飛砂を防ぐ防風林として、万一の津波や高潮の際には、防波堤としての減災機能が期待される。

 実は県内には27年前、宮脇名誉教授の指導を受けて作られた同種の森がある。

 君津市と木更津市にまたがる新日鉄君津製鉄所と市街地の境界には、84年ごろ、粉塵(ふんじん)などの飛散防止のため、工場建設の際に発生した残土などのがれきを入れた約2キロの堤が造成された。当初は50センチ程度だったマテバシイなどの苗木が大きく育ち、市街地の環境保全に役立っている。当時使用された土砂とがれきは約52万立方メートルで、震災後、浦安市内に積み上がった噴砂の約7倍の規模になる計算だ。

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 震災では、陸上の液状化被害に多くの注目が集まっていたが、浦安市の海岸の護岸では、地震の揺れなどで一部がせり出したり、はがれ落ちる被害が生じていた。

 浦安の埋め立て地は海を護岸で囲い、その中に砂を投入して造成されており、護岸崩壊は埋め立て地に大規模な被害を与えかねない。森の防波堤はこうした被害の防止にも役立つ可能性がある。宮脇名誉教授は「市民も行政も地域のために一緒になって木を植え、これからの海岸都市のシンボルとして森を育ててほしい。それが命を守ることにつながる」と話す。

 実現すれば、噴砂の処理だけでなく、防風・高潮・津波対策や護岸強化まで達成できるという防波堤構想だが、一部市議には「工事費の規模や市の負担の度合いがまだ全くわからない」とコスト面を懸念する声もある。

 これに対し、松崎秀樹市長は「森で浦安を囲んで強い街にしたい。市民とともに進めたい」と復興市民会議に提案する方針。今後、具体的な検討が始まる見通しだ。【山縣章子】

毎日新聞


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