IEA、「ガス黄金時代」の到来を予想

2011年 6月 7日
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国際エネルギー機関(IEA)は6日、安価な天然ガスの一段の増加と中国の燃料需要増大や福島第1原発事故が相まって、「ガス黄金時代」の下地が整った可能性があるとの見解を示した。

 IEAが示したシナリオによると、天然ガスの世界消費量は2035年までに50%以上増え、エネルギー需要に占める比率は現在の21%から25%超に拡大する可能性がある。

Associated Press
天然ガス貯蔵タンク(ボリビア・エルアルト)
 天然ガスは石炭や石油に比べると二酸化炭素排出量は少ないが、化石燃料であることに変わりはなく、利用量が増えれば温室効果ガス排出量の増加、ひいては地球温暖化につながるとIEAは警告する。ガス利用増加は、再生可能エネルギーや原子力といった低炭素エネルギーの利用の減退を意味する。IEAの田中伸男事務局長は「ガス利用の拡大だけでは気候変動の万能薬にはならない」と述べた。

 国際天然ガス市場は、エネルギーの将来に多大な影響を及ぼす革命のまっただ中にある。米国では、水圧破砕など技術の進歩により、テキサス州からペンシルベニア州に広がる新たなガス田での生産が増加してきた。そうした技術は、中国など大量のシェール(頁岩)ガス資源を持つ他国でも導入されつつある。IEAは向こう25年について、ガス生産増加の40%を非在来型ガスが占めると予想している。

 シェールガス革命を受けて世界ガス埋蔵量が大幅に上方修正された。IEAによると、現在の生産水準を250年以上維持できるだけのガスがあるという。政治的に不安定な中東に集中する原油と違い、ガスは地理的に分散しており、エネルギー安保の面で魅力的だ。

 シェールガスの増加と時を同じくして起こったのが液化天然ガス(LNG)取引の大幅増だ。これにより、何十年もの間パイプラインでしか輸送できなかったガスの供給が増した。福島第1原発事故も追い風だ。日本ではこの事故で原発の多くが運転休止を強いられたことからガス需要が急増した。また、長期的には、17基の原子炉停止を先月決めたドイツの需要が大幅に増加するとみられる。

 ただ、今後数年の国際ガス市場発展を左右するのは中国になりそうだとIEAはみている。同国は大気汚染の深刻な都市で、石炭発電からガス発電への移行を進め、ガソリンではなく天然ガスで走る商用車やバスを増やす計画のため、ガス需要が増大する見込み。

 IEAの「ガス黄金時代」シナリオによると、10年にはドイツ程度だった中国のガス消費量は、35年には欧州連合(EU)全体に匹敵する水準に増える。年間ガス生産が同年までに1兆8000億立方メートル増えなくては需要が満たせないが、これはロシアの現行生産量の約3倍に当たる。

 IEAはシェールガスのブームに警鐘を鳴らしている。水圧破砕による環境への影響の懸念があるため、非在来型ガスの生産見通しが「不透明」になっているという。業界は、水圧破砕は適切に行えば安全だと強調するが、飲料水が汚染される恐れがあると懸念する環境保全団体もある。

 IEAのチーフエコノミスト、ファティ・ビロル氏はIEAの大量ガス消費予想について、水圧破砕や過度の水利用、汚染リスクなどに対する住民の懸念を完全に鎮めるための業界の能力など数々の要因に左右されると指摘。「ガス会社はガス黄金時代を迎えたいなら、生産に黄金基準を適用する必要がある」と述べた。

記者: Guy Chazan

WSJ.com


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