気候変動と自然災害の関係に新データ

Brian Handwerk
for National Geographic News
February 17, 2011
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 昨年パキスタンを襲った大洪水は各メディアで取り上げられた。「気候変動と洪水の増加には関連性がある」とする報道を耳にしたかもしれない。新たな研究は集中豪雨や大洪水に焦点を当て、温室効果ガスの濃度上昇が気候の“二極化”の可能性を実際に高め、被害も深刻化するという説を裏付けた。

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 気候モデルや観測により、温暖化が進む現代における人間活動と自然災害の関連性は長く指摘されてきた。しかし、人間が引き起こした自然現象の変化について、観測に基づく科学データを提示する研究はいままでほとんどなかった。

 フランシス・ツビアーズ(Francis Zwiers)氏らは、北米やヨーロッパ、アジアなど北半球の広範な地域を対象に、1951~1999年まで半世紀にわたる雨量データを集計した。すると気象観測所の約3分の2において、同期間で上昇し続けた温室効果ガスの濃度と、深刻な水害の増加との間に相関性が見られたという。

「北半球で広域の雨量を調べたところ、24時間降水量の最大値が毎年増加していることがわかった」とツビアーズ氏は話す。同氏はカナダ、ビクトリア大学の太平洋気候影響コンソーシアム(Pacific Climate Impacts Consortium)の代表を務めている。

 世界水資源方針計画(Global Water Policy Project)の理事でナショナル ジオグラフィック協会の淡水問題担当フェロー会員のサンドラ・ポステル氏は、ツビアーズ氏の研究は有意義な科学的データを示し、気候モデルによる予測の裏付けになっていると評価する。

「例えばある地域に大洪水が起きる一方で、別の地域が干ばつに見舞われるなど、気候の“二極化”がますます進行すると考えられている」とポステル氏は話す。「10年に及ぶ歴史的な干ばつから一転、ノアの洪水並の大規模な豪雨が発生したオーストラリアのように、同じ場所に集中することもある」。

 世界人口の80%に対する水供給が危機にある現状を踏まえると、降水量の増加は干ばつ地域には朗報と思うかもしれない。しかし、それは我々が水を適切に扱うことができればの話だ。

「降水をしっかり貯めて適切に管理できれば、灌漑や製造、都市部への供給に役立てることができる」とポステル氏は述べる。「とはいえ、広範囲に及ぶ大洪水となると、パキスタンやオーストラリアの例のように都市や農地に被害をもたらすことがほとんどだ」。

 ツビアーズ氏は実際に観測したデータを、二酸化炭素(CO2)や他の温室効果ガスの影響に関する気候モデルと比較した。そこで興味深い事実を発見したという。

「降水量の急激な変化は、自然的な要因には由来していないようだ」とツビアーズ氏は述べる。自然の変化が絡んでいる場合、エルニーニョのように増加と減少を繰り返すのが通常だが、同氏の研究では増加傾向のみ示されたからだ。「一般に、気温上昇に伴い大気中の水蒸気量が増え、降水量の増加を引き起こしている」と説明する。

 高精度の気候モデルでは、温暖化に伴い降水量の二極化が世界規模で進行すると予測している。つまり、湿潤地域で洪水、乾燥地域で干ばつが一層深刻になるという。降水量の二極化が20世紀後半に加速したことを示すツビアーズ氏の研究結果は、気候モデルの強力な援護射撃となったかたちだ。

「我々の予測が正しければ、気候の変化の度合いはますます大きくなる」と同氏は警告する。例えばカナダの気候モデルは、20世紀末は大洪水の起きる確率が100年に1度のレベルだったが、21世紀末までに50年に1度になると示唆しているという。つまり、毎年1%だった確率が2倍に上がるということだ。

「自分の住む町について考えてみてほしい。排水管や給水システムは“100年に1度”をベースに設計された可能性がある。システムの規模が変わらず、温室効果ガスの濃度が今後も上昇し続けるようであれば、大災害に遭う確率は2倍になるかもしれない」。

 ツビアーズ氏の研究は、「Nature」誌オンライン版に2月16日付けで掲載されている。

AP Photo/MTI, Sandor H. Szabo


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