2011年4月2日
生態系サービスが企業にもたらすリスクとチャンスを評価する方法論「CEV」ガイドが、4月にWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)から発表される。日本では環境影響評価手法のLIME(被害算定型影響評価手法)を用いて生物多様性への影響を定量評価する動きが進んでいる。東北大学生態適応グローバルCOEの主催で開催された国際シンポジウム「生物多様性を測る」では、世界で開発が進む様々な生物多様性の定量評価のツールや指標について有用性が議論された。
企業が生物多様性保全を進める際、生物多様性の価値を定量評価し、自らの事業活動に組み込む効果を“見える化”することが重要になってきている。そのための多彩なツールや指標が国内外で発表され、出そろい始めている。
国際シンポジウムには、大勢の企業人が詰め掛け、熱心に耳を傾けた
2月17日に開催された「国際シンポジウム2011 生物多様性を測る~企業で使える生態系サービス指標~」では、東北大学や東京都市大学、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)などの研究者が集まり、企業が生態系サービスに与える影響やリスク、便益を測定する定量評価手法について、世界で開発が進むツールや指標、それを適用した事例などを紹介した。
シンポジウムの主催者である東北大学生態適応グローバルCOE「環境機関コンソーシアム」のリーダーを務める中静透教授は、まず、「すべての生態系サービスを経済評価できるわけではない」ことを前提として説明。「食料などの供給サービスは生物多様性を重視せずに単一品種を大量に導入したほうが経済性は高い場合もあり、文化的サービスはそもそも経済評価が難しい。また、生態系サービスにはトレードオフとシナジーがあり、1つの生態系サービスの向上を追求すれば他の生態系サービスが劣化する場合もある。評価に際しては、こうした点も考慮すべきだ」とした上で、生物多様性の経済的評価の最近の動向と、国内外で進む定量評価手法の例を紹介した。
東北大学大学院生命科学研究科教授の中静透氏
1つは、昨年10月の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で発表された「TEEB(生態系と生物多様性の経済学)」最終報告書だ。TEEBはUNEP(国連環境計画)が進めてきたプロジェクトで、森林保全に伴う温暖化ガスの排出防止は3.7兆ドルの経済的価値に相当し、魚の乱獲に伴う世界の漁業の機会損失額は年間500億ドルに上るといった生物多様性の経済的価値を金額で示した。
COP10で採択された「愛知目標」では、「遅くとも2020年までに生態系サービスの価値を国家勘定などの経済指標に組み込む」(目標2)ことを推奨している。こうした流れを受け、中静教授は「今後、生態系サービスの経済的価値の評価がさらに進み、それが認証制度やREDDプラス(森林減少と森林劣化による排出削減)、生物多様性オフセットなどの仕組みにつながる可能性がある」という。
もう1つ、生物多様性の評価には「地理情報も重要だ」と指摘し、コスタリカのコーヒー農園と茨城県のソバ畑の例を引き合いに出した。コスタリカのコーヒー農園では、コーヒーの花粉を運ぶのは森林にすむハチだ。ハチは巣を中心に1kmしか飛ばないため、広大な農園を造成してもコーヒーの収量は増えない。森林分布とハチの行動圏の地理情報からコーヒーの結実率を弾き出すことで、その森林の持つ経済的な価値を算出できる。茨城県のソバ畑でも、ニホンミツバチの授粉との関係から森林の価値を算出した例がある。
「今後はこうしたケースで役立つ地図化のツールをはじめ、企業の意思決定を支援する道具が次々と登場してくるだろう」と中静教授は期待する。