天空の木こり 金沢、地上30メートル

2011.03.21.

金沢市四十万町を車で走っていると、山裾の大きな木の上に、何かがもぞもぞと動いているのが見えた。サルかと思って巨樹を下から見上げると、動いていたのは人。石川では珍しい、木の上を仕事場に伐採に励む「空師(そらし)」と呼ばれる職人だった。

四十万中配水場の裏手にある竹林。竹の間にそびえる高さ30メートル近いクヌギの上に、チェーンソーを持った男性がいた。枝打ちのようにも見えたが、地上で見守る北野林業の北野直治代表が「木を倒しているんや」と教えてくれた。

 なぜ根元から切らないのか聞くと、「配水場が近いやろ。根元で切ったらフェンスに当たる」。北野代表によると、神社や墓地など木をそのまま切り倒せない場所で伐採するのが男性の仕事だという。

 男性は木の上を移動し、膝を深く曲げたり、手を伸ばしたりしながら、さまざまな体勢でどんどん木を切っていく。木と自分を直径9ミリの命綱でつないだ姿は、岩壁に挑むクライマーのようだ。

 作業開始から約2時間。20メートルくらいまで短くなった木から下りてきた長谷川一成さん(35)=川北町=に話を聞いた。

 「空で働くように見えるから『空師』。県外では、そう呼ぶところもあるそうです」。父正さん(66)の経営するはせがわ林業で働き始めた26歳のとき、初めて空師の仕事を知り、興味を持った。

 「簡単にできる」と思っていたが、木の上での伐採作業は想像以上に難しかった。落ちたこともあるが、幸い大けがはしたことがないという。「誰にでもできない仕事だからこそやりがいがある」と意欲を燃やし、ほかの空師の仕事を見て腕を磨いた。現在は県外からの依頼もあり、年間500本以上を切っているという。

 県森林組合連合会によると、約20年前まで県内には同様の仕事ができる「きこり」は少なくなかったが、高齢化や後継者不足で現在は数人しかいない。しかも、ほとんどが60代前後という。

 木の上で景色を眺めるのが一番の楽しみで、「これから後継者を育成するのが目標」という一成さん。さぞかし眺めは最高だろう。だが、自分にはとてもできそうもない。(北脇大貴)

< 北國新聞 2011.03.21.>

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