昨年頃から、山梨県内の地主や森林組合に対して、見知らぬ不動産業者などから「まとまった森林を買いたい」という目的や狙いがはっきりしない打診が相次いでいる。
北海道では、中国など海外資本が民有林を投機目的で買収する事例が確認されており、県内の林業関係者も森林が投機対象となることへの警戒感を強めている。
「森林を譲る気はありませんか」
富士北麓に森林を持つ地主の男性方に、そんな電話がかかってきたのは今年2月。
不動産業を名乗る男性は、「森を保全しながら利用する」と説明した。地主は「目的があいまい」と感じ、その場で断ると、すぐさま「ほかに森林を売りたがってる人を知りませんか」と尋ねてきたという。
県森林組合連合会(山梨県中央市極楽寺)にも今年に入ってから、数十ヘクタール規模の広大な森林を買いたいという電子メールが3件ほど届いた。依頼主は日本企業や日本人で、森の中に川が流れていることを条件に指定してきたものもあったという。
森林はバブル期に、ゴルフ場開発などの投機対象となった。だが、同連合会の生井健二専務は「バブル以降は森林を買いたいという話はほどんど聞かない。何に使うつもりなのか」と首をかしげる。
似たような森林買収の動きは、全国各地で少しずつ表面化している。
林野庁は2008年6月、各都道府県を通じ、海外資本に森林が売却された事例の聞き取り調査を開始した。
同庁によると、北海道で9件の売買事例が確認され、買われた森林の面積は東京ドーム約100個分にあたる計463ヘクタールに上った。買収したのは中国系企業が半数を占め、残りはオーストラリアやニュージーランドなどの外資系企業だった。取引の時期は08年に1件、09年に7件で、残り1件は不明だという。
民間調査研究機関「東京財団」は今年1月、海外資本が日本の森林を買収する動きがあるとするリポートを公表。この5年ほどの間に山梨、三重、埼玉各県などで森林買収の動きがあったと報告した。
県森林組合連合会などの関係者は、買収について、〈1〉森林の価値が上がることを見込んだ投機目的〈2〉世界的に需要が高まっている材木の伐採と売却狙い〈3〉戦略物資として世界的に重要性を増している水を水源林ごと確保する動き――などと分析する。特に有力と見られるのが、投機を目的とした買収だ。
県林業振興課の橘田博課長補佐は「日本の森林は長年カネにならないと言われ、底値にある」と分析。その一方で、「中国の急激な経済成長で材木の需要は高まっており、質の高い材木が採れる日本の森林の価値は高く、投機対象になり得る」と見る。
森林の価値が見直されているとも言えるが、買収の動きを歓迎する関係者は少ない。道志村では、村の広報誌で森林買収の動きについての情報提供を呼びかけている。村内には水源林が多く、海外資本などによる乱開発の対象となることを懸念しているためだ。
林野庁の調査依頼を受け、県も昨年度から、森林組合などへの聞き取り調査を実施しているが、今のところ県内では海外資本による森林買収は確認されていないという。(前田遼太郎)