8月7日(ブルームバーグ):夏の炎天下、東京都西多摩郡檜原村の山林で大粒の汗をかきながら働く小柄な女性がいる。山の急斜面に足を踏ん張り、重さ5キロ・長さ2メートル弱の草刈り機で3、4メートルの高さの雑草や雑木を刈り取る。林業ベンチャーの東京チェンソーズの社員、大塚潤子さん(30)だ。
大塚さんは東大農学部卒。外資系イベント展示会社で4年間勤務後、昨年入社した。月給は2割ほど減ったが、中学生の頃から海外の違法伐採や環境問題に興味があった。大塚さんは「自分からアタックしてこの会社に入った。国内の林業は開拓の余地がある」と話し、新たなビジネスに意欲を示す。
後継者難から高齢化が進んでいた林業に、若者が働き手として流入し始めている。林野庁の最新統計によると、林業従事者のうち35歳未満の比率は00年の10%から10年は18%に回復。中でも「林業女子会」が京都を皮切りに各地に広がるなど、女性の活動が活発化している。林業に飛び込んだ若者を描いた映画「ウッジョブ」も一役買いそうだ。
森林・林業白書によると、現場業務に従事する林業従事者数は80年の14万6300人から05年は5万2000人まで減少したが、10年は5万1200人と減少のペースが鈍化している。10年に現場で働く女性は3000人。
日本は戦中戦後に軍需物資や復興のため森林が伐採されており、1940年代から60年代にかけて杉やヒノキなど大規模な造林が行われた。同白書によると、現在は45年生以上の収穫適齢期の森林の割合が半分以上に達した。国土の約65.8%を森林面積が占め、先進国の中ではフィンランド(72.9%)、スウェーデン(68.7%)に次ぎ3位。
日本の林業は安い輸入材に押されて低迷し、就労人口も減っていたが、富士通総研の梶山恵司上席主任研究員は、戦後に植林された木が育ち、「まさにこれからだ」と指摘。「疲弊する地域経済再生の切り札や雇用の受け皿として、期待は高まっている」と話す。
林業再生プラン
豊富な森林資源を活かそうと歴代政府も林業育成に動いている。民主党政権は09年の「森林・林業再生プラン」で、「コンクリート社会から木の社会へ」とうたい、需要創出策として国産材住宅やバイオマス、公共施設への木材利用などの推進を挙げた。鉄筋コンクリートだった高知県土佐町役場は町内産木材を使い12年8月に建て替えられた。
また、安倍政権は日本経済の再生に「林業の成長産業化」を打ち出し、「日本再興戦略」改定版に盛り込んだ。海外で普及する中層ビル木造化に関する設計法確立や木質バイオマスの利用促進にも取り組む。
政府方針を受けて、住宅メーカーも木造建築の普及に動いている。三井ホーム は昨年11月に銀座にツーバイフォー木造耐火建築5階建ての店舗併用共同住宅を建設。広報担当の宮永隆氏によると、この木造ビルは鉄骨造などに比べて工期が1-2割くらい短縮され、総工費も約2割安いという。住宅以外に施設などへ木造建築を広げられれば、「事業拡大にも寄与する」と同氏は期待する。
若い力
東京チェンソーズを06年に創業した青木亮輔氏(37)は出版社からの転職組で、林業に必要な知識や技術の習得に向けた国の就業支援策「緑の雇用事業」の第一期生。「林業は異業種、若い人が入ってきたことで活性化されてきたのを明確に感じる」と語る。
米国の大学を卒業後、外資系コンサルタントを経て入社した吉田尚樹さん(35)は、日本の林業は待ちの姿勢で「営業という概念がなかったらしい」と話す。木材を切り出す以外の価値創造を目指しており、「山は宝の山だ」という。
同社は杉かヒノキの苗木3本を一口5万円で個人購入してもらう事業を始める。約30年後に伐採し出資者が自分用に家具や家の一部に使えるようにする。また、地元産の木製玩具の開発・販売を企画、事業資金の一部をクラウドファンディングで集める方向だ。大塚さんは、まきを使った村の温泉施設や玩具などを「観光に結びつけられたら」と話す。
安定供給の課題
富士通総研の調査では日本の木の体積量を示す森林蓄積は60億立方メートルと、森林大国ドイツ(34億立方メートル)の1.76倍もある。かつて見境なく伐採した結果、木材生産量が急減した轍を踏まないためには「場当たり的に国が金を付けるのはやめるべきだ」と、民主党政権下で林業再生プラン作成に携わった同総研の梶山氏は指摘する。
同氏は、欧州の林業先進国に比べて日本は「林業専用の機械導入や木材を効率よく運搬する林道整備、人材の育成」が劣っているとし、安定的な供給体制の構築が不可欠だという。安定して木材生産が行われるようになれば、「地域経済底上げに多大な貢献をする」と期待する。
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更新日時: 2014/08/07 10:35 JST