2012年10月22日
森林の現況を、多くの市民が手分けして科学的に調査する「森の健康診断」。七年前に愛知県・矢作(やはぎ)川流域で始まり、全国に広まった手法だ。放置人工林の荒廃ぶりをつまびらかにし、行政を動かした。近年は子ども向けプログラムが小学校などで実施されている。「愉(たの)しくて少しためになる」が合言葉の調査に、記者も同行した。 (吉田瑠里)
十月半ば、岐阜県恵那市の長島小学校の五年生三十人が、標高約七百メートルにある学校林で「森の健康診断」をした。山中にはヒノキの人工林。矢作川水系森林ボランティア協議会の稲垣久義副代表(68)は、事前に「不健康な森は木が混んでいて光が差さず、下に草木が生えない。だから雨が直接当たり、土壌が流出してしまう」と説明した。
子どもたちは五~六人の班に分かれて、調査地点へ。まず中心とする木を手をつないで囲む。協議会代表の丹羽健司さん(58)は「この辺の木が電車で言えばラッシュなのか、考えます」と、木の葉と葉が重なり合う空を見上げるよう促した。
そして中心木の周囲の地面で斜面の傾きや、低木と草の葉が地面を覆う割合などを調べる。次に中心木から約百平方メートルとなる円を描き、木の本数を数え、直径や樹高を測る。その値を密度管理図のグラフに当てはめると-。「超過密じゃん」。子どもたちから声が上がった。円内には十七本の木があったが「半分切ると適正、ということ」と丹羽さん。
切る木を選び、子どもたちは力を合わせてノコギリをひいた。高さ約二十メートルのヒノキが音を立てて倒れた。切り株に集まって見上げると、ぽっかりと青空が丸く見えた。「光が差して雲が見える」。歓声が上がる。「私たちが草を助けたんだ、木を切れば草が生きられる」と秋山絢香さん。
春日井善久教頭(53)は「山の中に住んでいるのに、子どもたちは森に入ることがあまりない。自分で診断して意味が分かって木を切り、匂いや倒れる音を感じる。この体験が感動を生み出すと思う」。この学校の健康診断は四年目を迎えた。
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