国内林業再生への動き 被災者の仮設住宅も国産の木材で

2012.1.17 J-CASTニュース
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国内で使用される木材は長年、海外からの輸入に頼ってきた。しかし近年、国内の森林を整備して国産材を活用する動きも出始めた。

 世界では減少の一途をたどる森林資源だが、日本では逆に増加している。国内にある木材資源を有効利用すれば、環境保全につながる利点もありそうだ。

■「国際森林年」国内では有識者で委員会設置

 世界の森林は、1990~2010年の間に日本の国土の4倍もの面積が減少した。特に南米やアフリカで大きく減っている。ところが国内では、過去40年以上にわたって増え続けているのだ。林野庁の資料によると、1966年は国内の森林資源が18億8700万立法メートルだったが、2007年には44億3200万立方メートルと約2.3倍となった。

 国が推進した植林の効果もあるが、一方では1960年代以降、木材の供給源が国内の森林から海外に移行したことも影響している。1955年の木材自給率は90%を超えていたが、安価な輸入木材に押されて国産材は採算性が厳しいことから、自給率はここ20年ほど20%台に低迷したままだ。

 森林は残されたが、適切な整備が施されないままというケースが少なくない。木々が増えすぎた場合、成長した立木を一部伐採する「間伐」をしないと森林が健全に育たず、森が本来もつ機能が失われてしまう。

 森林資源は年々増えている半面、有効に活用されていない――。そこで農林水産省では2009年に「森林・林業再生プラン」を策定し、木材の自給率を10年後には50%以上にまで高める目標を掲げた。一方、国連が定めた「国際森林年」の2011年に合わせて有識者メンバーによる国内委員会を設置、「森のチカラで、日本を元気に。」をメッセージに掲げ、林業の再生を目指して森林の保護や資源活用のためのさまざまな取り組みを続けている。

 2012年1月10、11日には第5回国内委員会が、東日本大震災の被災地でもある岩手県で開催された。岩手が選ばれたのは、被災者支援や被災地復興に森林資源を役立てる事例を周知することで、活動をさらに積極化していくねらいがあるようだ。委員会には、坂本龍一氏、C.W.ニコル氏、作家の天野礼子氏らが参加し、今後の林業再生についての課題や方向性などを議論した。また、遠野市の馬搬や住田町の仮設住宅などの視察も行った。

■馬を使った伝統的な木材運搬法の復活を支援

 岩手県遠野市には、「馬搬」(ばはん)と呼ばれる伝統的な木材搬出法がある。山林から切り出した木材を、馬の後部に取り付けた運搬器具にワイヤーで結びつけて運び出すのだ。馬には、1回の運搬で1トン程度の木材を引っ張る力がある。真冬の遠野は日中でも凍えるほどの寒さだが、1月10日も雪の残る山道を、数人の馬搬技術者が馬を操りながら巧みに木材を運び出していた。

 山林では大型の重機が入りにくい場所もある。馬搬技術者の岩間敬氏は、「細い1本道でも馬なら通れるし、上り坂でも動ける」と説明する。しかし近年は木材搬出も機械化が進んだため馬搬の後継者が不足し、全盛期には遠野に40人を数えた技術者も今では3人まで減ってしまった。「国際森林年国内委員会」では、国内林業の活性化策のひとつとして自然環境にやさしい馬搬に注目、また自治体も技術者育成の支援をしている。

 木材を被災者支援に利用している例もある。木造仮設住宅の建設だ。遠野市に隣接する住田町では、地震と津波で大打撃を受けた陸前高田市や大船渡市からの被災者を受け入れるため、震災から2週間後には地元の木材を使った仮設住宅を完成させた。遠野市では、被災した沿岸部で伐採した木材を県の内陸部で製材、加工した後、今度は沿岸部での「復興住宅」のための建材として使う構想もあるという。

 1月10日には、「国内委員会」メンバーや林野庁関係者、本田敏秋遠野市長らを交えて、2012年以降の活動内容に関する「意見交換会」も開かれた。委員のひとりで作家の天野礼子氏は、従来行われていた「切り捨て間伐」に言及。森林で木を伐採さえすれば、木材として運び出さず森に放置したままでも林業従事者には補助金が出されていたという。しかし林野庁は2011年4月から「切り捨て間伐」への補助金を廃止し、木材としての活用を前提とした「利用間伐」を促進する方針に転換したことを天野氏は評価した。

 同じく委員を務める作家・環境保護活動家のC.W.ニコル氏は、出身地のウェールズやカナダの森林で害虫が運んできた病気がまん延し、「バサバサ切られた」状況を目の当たりにした経験を披露。そのうえで、森林資源の活用だけでなく森の生態系を守る姿勢を持ってほしいと訴え、そうすることで大事な森林資源は増えていくと説明した。


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