途上国森林保全 CO2削減と多様性の柱に

政府が、違法伐採などで急減している途上国の森林保全に向けた協力事業に乗り出すことになった。名古屋市での生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に合わせて開いた「森林保全と気候変動に関する閣僚級会合」で、共同議長を務めた前原誠司外相が表明した。

 協力事業は、途上国での森林保全と温暖化対策を同時に進める新しい国際的枠組みの中で実施する。日本は既に3年間で5億ドル(約400億円)の支援を表明しており、インドネシアやブラジルなどと2国間協力を進めたい考えだ。

 森林保全は温暖化対策の重要な柱であり、二酸化炭素(CO2)の削減に最も効率的な手法の一つだ。同時に、熱帯雨林などの生態系の保全にも役立つ。日本が国際社会と連携し、これに取り組むことは前向きな行動として評価できる。

 世界の森林面積は40億ヘクタールと陸地の3割を占める。CO2を吸収して酸素を作り出し、水や土壌を守り、食料や木材を供給している。熱帯雨林は薬効成分を持つ有用な植物や微生物の宝庫でもある。

 ところが、違法伐採や農地・牧草地への転換などで減少を続けている。国連食糧農業機関(FAO)によると、東南アジアやブラジルの熱帯雨林を中心に、日本の森林面積の3分の1に相当する730万ヘクタールが毎年減っているという。

 その結果、多くの生物が絶滅の危機に追いやられ、荒廃した森林は逆にCO2の排出源となっている。こんな森林減少によるCO2排出量は、世界の温室効果ガス排出量の10―20%に達するとされる。

 経済的な損失も巨大である。何も対策をしなかった場合、熱帯雨林などの生態系の破壊による経済的損失は、世界で年間最大4・5兆ドル(約360兆円)に上るという。COP10の会合で公表された「生態系と生物多様性の経済学」の最終報告書は、こう警鐘を鳴らした。

 新たな国際的枠組みは、森林を保全する途上国に資金や技術を提供することでCO2の排出を削減する取り組みだ。今年5月にその推進組織が設立され、先進国と途上国の69カ国が参加している。今会合では2012年までの作業計画を協議し、日本を含めた先進国が計40億ドル(約3200億円)の支援を確認した。

 途上国は得られた資金で、森林伐採や焼き畑の停止などで収入を失う現地住民の生活支援や植林などに役立てる。先進国は、協力事業で削減できた排出量を排出枠として獲得できる仕組みだ。

 この枠組みには、温暖化対策の京都議定書を離脱した米国や排出削減義務のない中国も参加している。参加国が政治レベルで、この取り組みの重要性を確認したことは収穫である。これを議定書後のルールづくりのてこにしたいが、先進国と途上国の対立が続き、国際交渉は極めて厳しい状況に陥っている。

 だからこそ、日本など参加国は排出削減量の測定方法など残る課題を詰め、CO2削減の実績を示す必要がある。

<西日本新聞(2010.10.28)>


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