周南流 森保全 企業と連帯

k_img_render.php◆二酸化炭素吸収量→市が販売→環境整備
  広大な森林と国内有数の石油化学コンビナートが併存する周南市が、両者を結びつけて森林整備を図る「森林づくり基本計画」の策定委員会を先月、設けた。県によると、この種の計画を策定するのは県内の市町で初めて。市は、森林の温室効果ガス吸収量を企業に買い取ってもらうオフセット・クレジット制度の導入など、企業群の協力によって、急速に進む森林の荒廃に歯止めをかけたいとしている。
(福家司)
  市が導入を計画しているのは、環境省のオフセット・クレジット(J―VER)制度の森林管理プロジェクト。間伐によって増えた森の二酸化炭素吸収量を、排出枠のほしい企業に売り、その収入でさらに森林整備を進める。すでに高知、鳥取両県や北海道の市町などが取り組んでいる。
  市は今年度予算に、登録に向けた経費170万円を計上している。委員会の事務局を務める市農林課の徳永豊課長は、「まず、市有林で進めている間伐による吸収量を買い取ってもらいたい」と望む。
  市は、市内の化学工場に巨大な石炭火力発電所を持つトクヤマ、東ソー両社が間伐材などから作られる木材チップを木質バイオマス燃料として混焼することにも期待する。木質バイオマスの活用は岩国、宇部、山陽小野田各市などの企業、発電所が先行。徳永課長は、「市内で多くの木材チップを製造する事業所を募りたい」と語る。
  背景には、森林の急速な荒廃という県内、国内共通の課題がある。同課によると、市内の森林は510平方キロで、市域の78%を占める。面積は岩国、山口、下関、萩市に次ぐ県内5位だ。
  しかし、木材価格の低迷で伐期の40~50年を迎えているのに切り出されないスギ、ヒノキの林の中には、間伐など手入れが行き届かず、生育が不十分な木も少なくない。県内に特に多い竹林も森林にダメージを与えている。伐採後に植林されない放置林や、間伐材が林に放置されている「切り捨て間伐」も目につく。
  委員の一人で県森林組合連合会の梅田孝文会長は、「森林整備には国の補助金や森林づくり県民税などが充てられるが、個人負担も残る。民有林にもオフセット・クレジットが広がり、個人負担がなくなれば、森林整備が進むのではないか」と期待を込める。
◆効果・コスト…課題も
  これに対し、委員会に社員も加わっているトクヤマ徳山製造所の三笠博司・副所長は「市の森林整備に協力したい気持ちはあるが、オフセット・クレジットについては、まだ内容がはっきりしないので何ともいえない」という。同製造所では木質バイオマス燃料を昨年、約8千トン混焼したが、大半は建設廃材という。三笠副所長は「間伐材からできるバイオマス燃料はコストが高いと聞いている」と慎重だ。
  一方、県は毎年10~11月、市内を中心とする企業の従業員を対象に、森林で下刈りや枝打ちなどを体験してもらう「まちと森と水の交流会」を開いている。1997年から主に鹿野地区の森林で始め、昨年から須々万地区の市有林「ふれあいの森」に会場を移した。当初は17社105人にすぎなかった参加者は昨年、44社685人まで増えたという。
  「周南の企業は、県の工業用水の『お得意様』。だが、森林の水源涵養(かん・よう)機能があるから水を供給できることを認識してもらいたい」と委員の秦英人・県周南農林事務所森林部長は強調する。
□■ オフセット・クレジット(J―VER)制度 ■□
  環境省の認証運営委員会が定めた13種類の「方法論」からプロジェクトを実施して温室効果ガスの排出を削減、または吸収量を増やせば、削減・吸収量(クレジット)を国内で取引できる制度。2008年に創設された。同委員会にプロジェクトを登録し、削減・吸収量の認証を受ける必要がある。カーボン・オフセットのためクレジットを買い取った企業などは、社会貢献につながる。


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