国指定剣山山系:鳥獣保護区拡大 「一歩前進」関係者ら歓迎

◇「保全」と「食害」両立目指す

 環境省のレッドリストに絶滅の恐れがある地域個体群として掲載されるツキノワグマや猛きん類などが生息する徳島・高知両県にまたがる「国指定剣山山系鳥獣保護区」が先月末に指定期間満了を迎え、今月1日から新たに保護区指定された。面積は1万139ヘクタールから東部(徳島県側)に1678ヘクタール拡大され1万1817ヘクタールに。関係者や地元住民は拡大を歓迎するとともに、今後の新たな保護対策に期待を寄せている。【深尾昭寛】

 新たな期間は2029年10月31日までの20年間。拡大区域は主に徳島県那賀町の山林だ。これまでの保護区については、ツキノワグマの保護・調査活動を行うNPO法人「四国自然史科学研究センター」とWWF(世界自然保護基金)ジャパンが05年4月から行ってきた共同調査で、現行の保護区では生育地を十分にカバーできていないと指摘するなど、区域を東、西、南の三方向に拡大するよう求める声があった。

 環境省の中国四国地方環境事務所でも、ツキノワグマたちが現行の保護区域外で生息していることは確認しており、毎日新聞の取材に対し、今回の区域拡大がそれに伴うものであると話している。拡大が東部のみで西、南の区域に及ばなかったが「行政や地元住民との調整が間に合わなかった」のが理由のようだ。

 鳥獣保護の一方で、保護区周辺の山林では、シカの個体数がここ10年弱で増大し山林や農地への食害が問題化している。同事務所が08年度に行った生息密度の調査によると、保護区周辺にはシカが1平方キロメートルあたり7・2頭生息。最も多いところでは29頭と、「適正値」とされる3~5頭を大きく上回る結果が出た。

 同事務所は年度内にも地元に協力を求めシカの捕獲を計画するなど、食害対策を積極化する予定。また、保護区の区域については、手続きを踏めば満了を待たず変更可能といい、同事務所では「シカの食害問題とツキノワグマや猛きん類など保護区の貴重な生態系保全の両立に向け、今後も取り組んでいきたい」としている。

 同センターは、保護区拡大を歓迎しつつ、「一歩前進だが十分とは言えない」と指摘。「シカ問題を含め、根本的解決には鳥獣の生息地をどう管理・保全していくか。保護区指定だけでなく、国有林の適正管理や経済林として使われなくなった民有林の自然再生など、森林そのものの保全・管理方法の見直しが必要」と話している。